女の子になるなんてよくある話
くいな
第1話 事は突然に
身体が燃えるように熱い。
芯から指先までーーベットの上で冷たさをもがくようにして探す。
まくらの冷たさを抱き抱え、熱がこもると次の冷たいものを探す。
それの繰り返しで俺は、やっと意識を落とすことに成功した。
俺の名前は片月ハルト。
どこにでもいる普通の男子中学生で春から普通科の高校生だ。
普通の環境に適応したせいか、悩みといえば、姉のことだけだった。
そんな俺にも新しく他人の悩みではなく自分の悩みができてしまったのだ。
それは4月の初め、そろそろ春休みが終わるぐらいの頃。
まだ少し寒くはあるが、12月と比べると断然暖かい。
高校生にそろそろなる俺が起きたのは朝、6時の事だった。
これを自主的に習慣に身につけることができたら、どれだけ良いだろう。
だが、現実はそんなに甘くはなく、俺は起きたのではなく起こされたが正しいのである。
寝てる俺の横、物置棚にしてる机の上で無慈悲に鳴りつづけるスマホに目を向ける。
どうやら、誰かからの電話のようだ。誰かからって言うのは少し白々しいがもう誰からかかってきてるかは、だいたい想像がつく。
こんな時間にかけてくる迷惑極まりない人物は、あの人しかいないだろう。
ーー
自慢の1つであり悩みの1つでもある。
母親に似たのか、性格とは厳しく言動は刺々しく。
父親に似たのか、よく自分の事が疎かになる。
これだけ取ると両親の悪いところが遺伝しちまったみたいだが、彼女自身が磨き上げた勉強スキルは、学校でも群を抜いているという噂だ。
だが家事スキル(とくに掃除スキル)は全くないに等しい。
主に、俺がいるときは家事はすべて押し付けて来る。
口癖は、「めんどくさい」や「やっといて」だったりする。
俺は、スマホを耳に当てる。
高校に入学式する祝いで買ってもらった黒いカーバーの付いた赤いスマホだ。購入した当日に、姉に連絡アプリやらアラームアプリやら、いろいろ入れられた。
その後アラームが活用されることなく、姉に起こされるのだが。
それは、それとして起きれてるから問題はないだろう。起こされる時間が少し早いというのは、置いといて。
微かに「んっ」って言う声が耳に響き会話は、始まった。
「今日、泊まっていい?」
「ダメに決まってるだろ? 俺も、もう子供じゃないんだ」
「朝、まともに起きれない人が大人ね……っ!? ハルトよね……?」
急に声音が変わる。それも電話越しのはずなのに殺気が伝わるほど。
姉を相手にしたら、俺は秒も持たずに病院または、あの世送りだろう。もちろん冗談である。だが冗談であって欲しいが、骨は余裕でおってくるだろう。
「そうだけど?……弟のことも忘れたのか? あともう高校生だ!」
俺の言葉を何もない風のように通りすぎていく。
「私の好きなものは?」
「ゲームと睡眠とチョコレートだろ?」
「最後の1つは余計ね、次に同じこと言ったら口を縫い合わすわ。てか本当にハルトのようね……声、どうしたの?」
殺気から解放されたような感覚のあと、俺はその姉の言葉でやっと異変に気付いた。
……声がガラガラであまり気にしてはいなかったが、声が少し高い。
違和感はない、しかし言われてみればという程の変化。
だがいつもの寝起きの低い声と比較したら、おかしいような気がする。
「風邪じゃね? そうそう昨日の夜、めっちゃ暑かったからたぶんそれで風邪引いたんじゃ……」
「大阪は、昨日そこまで暑くなかった、はずなんだけど……」
俺はその言葉を聞く前に、言葉を失っていた。真下には、前に飛び出す大きな山脈が……。
いろんな意味で現実を壊される、そんな光景。
寝ぼけ眼を左手で
こんな時だからこそ、言えるが俺は両手利きだ。全く関係ないけどな。
「ねぇ? 聞いてるの? おーい」
「なぁ、千鶴……1つおかしい質問していいか?」
「いいけど……」
冗談だと思われたら、俺は今日中には姉に殺されるだろう。もちろん冗談だがそれぐらいおかしな質問を怖い姉に尋ねる。
「俺って千鶴の妹だっけ?」
「は? どうしたの? 頭でも打ったの?」
「ははっ……そうだよな」
「風邪引いて頭でもおかしくなった?」
おかしくなった。おかしくなったのだ。姉のいうところの頭ではなく、目の前の凹凸的な意味で。女性になりたいと嘆いている人は、世界にたくさんいる。その人達にこのハプニングイベントの譲渡が可能なら秒もかからずしているだろう。
「ああ、おかしくなった……」
寒気で震えると、違和感しかない長い髪が俺の頬をなぞった。そして何か大切なものを失った喪失感。
それは拭えなかった。相棒を失った。
これから俺は、この山脈と暮らしていくらしい。
柔らかい……プリン。
ここで俺の脳は、完全に止まった。
どう説明しろと、こんなの。
「ごめん……ちょっと話さないといけない事ができた」
「何? 次は、急に女の子になった~ 助けて~なんていうつもり?」
「……」
「ーーマジなの?」
一拍置いてからの新鮮に驚く声。どうやら適当に言ったのが当たってしまったという反応を見せる。
「マジです」
「あのさ、女性物の下着とか貸してくれるとありがたいんだけど……」
「なに? 姉によくじょ……」
「ーーするわけないだろ!」
「意外とその言葉……傷付くんだからバカ!」
高音のノイズが俺の耳を埋め尽くす。
「まぁ、いいんだけどさ……あんたの眼中にないのは知ってるから……」
「ん、なんのことだよ?」
「なんでもないわよ! で今日行くからね、部屋ぐらい掃除するのよ?」
「あ、ああ」
流されたように返事してしまった。
姉をこの問題に関わらせたことを俺は、あとになってから後悔するのだった。
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