モノポリー

 このソフトまでにはあといくつか段階を踏む予定だったのだけれども、やっぱりこのゲームを語りたいという思いが先に立ってしまった。


 まず、このソフトは買ったものではない。ある時、多分もうプレイステーションが発売されていたころだと思うが、知人の家から大量のスーファミソフトを譲り受けたのだ。二十本もあっただろうか。ソフトを入手するのには誕生日かクリスマスを使うしかなかった我々兄弟は、この突然のバブル景気に狂乱した。次々に新しいソフトをガチャンコした。クロノトリガー、トライフォース、ファイナルファンタジーⅤといった有名なものから、(貰ったのはソフト本体だけで、説明書などはなかったので)起動はしてみたものの遊び方がさっぱりわからないものまであった。そしてそれらの中に、モノポリーは存在していた。


 モノポリーがどういうスーファミゲームなのか説明すると、まず前提として同名のテーブルゲームがある。有名なので詳しい説明は省くし、たぶん私が説明するよりWikipediaのリンクを貼ったほうが有益だと思われる(しかしカクヨムはリンクを貼れないので各自検索をお願いします)。で、そのモノポリーをスーファミ上でプレイできるというソフトである。まずプレイヤーは『モノポリーの館』に招待されていて、その『モノポリーの館』にはモノポリー好きの個性豊かな面々が集められている。金田一少年だったらもうこれで五、六人の死亡は確定したようなものだが(死体の横に必ず指ぬきとかシルクハットとかのコマが置いてある)、これはモノポリーなのでその心配はない。プレイヤーはこの『モノポリーの館』の各部屋へ赴き、その部屋に集まっている面々(CPUです)を相手にモノポリーをする。その部屋で勝利するとトロフィーがもらえ、すべての部屋のトロフィーをコンプリートするのが一応の目標となる。こういうゲームである。


 かなり地味なゲームではある。ただ我々はこのゲームにハマった。最初はそもそもモノポリーのルールを知らなかったため、なんかサイコロを二つ転がして進めていって気づくと破産させられている恐ろしいゲームでしかなかったが、対戦相手のとる行動を観察し、徐々に戦略を身につけていった。後半になったら刑務所になるべく長くいたほうがいいとか、ライトグリーンはコスパが悪いとか、オレンジが最強とか、ライトパープルは破壊力はないけど小遣い稼ぎに最適とか、CPUはラスト一軒の物件のためなら千ドルでも支払う(からライトグリーン以外の物件はとりあえず手にいれておいたほうがいい)とか。そして戦えるようになってくると、モノポリーは運と技術のバランスが絶妙なとてもおもしろいゲームなのだった。


 モノポリー自体の面白さとは別に、このゲームの魅力がもう一つあった。対戦相手であるCPUだ。たしか部屋が八つはあったはずだから、八×四で三十人以上はいたはずなのだが、その一人ひとりに強烈な個性があった。聖飢魔IIのようなメイクの『パブロフ』、掃除のおばちゃん『くぼみつこ』、交渉の行方を水晶玉に委ねる占い師『マダム・リリー』、脂ぎった社長の『なぐもせいいち』。中でも我々のお気に入りは『ノーベルこみね』だった。『ノーベルこみね』は腹話術師で、常に人形の『トンちゃん』と一緒にプレイする。この『トンちゃん』が腹黒く、初手で四を出せば「やーい こみねが入った」、ホテルの物件に止まると「もういっかい振り直そう」などすべてこの調子だった。それに対して『ノーベルこみね』は「この、うらぎりもの」とか「トンちゃん だめっ」とかで応じる。その漫才見たさに、我々は『ノーベルこみね』の部屋を何度も何度もプレイした。


 モノポリー自体にハマった我々は、その次のクリスマスにテーブルゲームの方のモノポリーを買ってもらった。スーファミのモノポリーは二人までしかプレイができないので、三人でやるにはそうするしかなかったのだ。人対人でやるモノポリーは今まで培ってきた戦略が通じず(何しろ全員が共有済みだったので)、また別の技術を磨かねばならなかった。ただ一つ問題だったのは、我々は全員が全員大雑把で、紙のお金がすぐにぐちゃぐちゃになってしまったことだった。

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