推理



「はぁ……千雪がここに住むと連絡を受けたにもかかわらずそれを伝えなかったのは……いえ、そもそも千雪と僕とを一緒に住まわせようと画策したのは晴子さんで間違いないですか?」

「ふふっ。何故そう思ったのかしら?」


うわぁ……明らかな黒幕的発言。

もっと色々言い方あったでしょう?ほら、千雪もそのお父さんも間抜けに口をポカンとさせちゃってるし。


「まず、千雪に『僕の家に住む』という発想を与えた誰かがいると思っていました。そうなると、友達が少ない千雪では候補が絞られる。その段階で、あなたはその候補者の一人でした。」

「それで?」

「千雪が電話して伝えたにも関わらずそれを自分の夫に伝えなかった。まあ、ここまでくればあとは想像ですね。

 まず、千雪を日本に置いた状態で自身は夫とゆっくり海外で暮らせる。そして、千雪は当時から僕を好いていたから、一緒に住めるというのは大きなメリットになる。あと、悪い男に捕まりそうな娘を優良物件に押し付けられる。

 あなたに対して驚くほどにデメリットが無いですよね?」

「でも、それは証拠じゃないわ。」

「まあ、そうなんですけどね。でも、消去法であなたしかいないんです。まず、目の前のこのひと千雪のお父さんは真っ先に候補から外れる。千雪の友人たちは僕と千雪が一緒に住んでいると聞いて、明らかに動揺していたから、やはり候補から外れる。

 すると、あなた以外に誰がいますか?」

「ふふっ。やっぱり千雪はなかなかいい男を捕まえたわね。でも、それじゃあ状況証拠しかないわよ?」

「確かにそうなんですけどね。というか、本当に証拠が欲しいなら千雪に聞いたらいいんですよ。」


そりゃあ、千雪が色々吹きこまれたんだから、千雪に聞いたら一発でわかる。


「うん。合格。」

「まあ、試されているのかなぁとは想像していました。」


その僕たちの会話を聞いて、天を仰いだのは千雪のお父さんで、いまだに首を傾げているのは千雪。

この辺は経験値の差なのだろうな。

千雪は暫く考えた後に、納得するように手をポンと鳴らしたかと思うと、急に怒り始める。


「お母さん!!夜空君はわたしにとって大事な人カレシなんだから、試したりとかしないで!!」

「あらあら。ごめんなさいね。」

「ちょっと待て!お前ら付き合っているのか!?聞いていないぞ!」


いや、勝手に怒っている人にわざわざ言うわけないでしょ?

だって、明らかに面倒くさい展開になるし。


「うちの娘はやらん!確かに春子は納得したかもしれんが、俺は納得しないぞ!今すぐに千雪を連れ戻す!ほら、千雪来い!!」

「嫌だ!わたしはここに居たいの!第一、お父さんは海外勤務なんだからそんなことできないでしょ!」

「じゃあ一緒に海外に連れて行く!」


そう言いながら立ち上がって千雪に手を伸ばす千雪のお父さんの腕を、僕は軽く叩き落とす。

確かに、親の立場からすればそんなのは認められないのも、心配なのも分かる。

だけど、話も聞かないでただ自分の意見を通そうとするのは納得いかない。

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