実力?



「いったん落ち着いてください。」

「っつ!なにする!」

「落ち着いてください。」


僕が繰り返してそう言うと、案の定千雪のお父さんは額に血管を浮かび上がらせた。


「そもそも!お前がうちの娘を追い返すべきだったんだ。」

「家事が出来ずに生活そのものが危うい友人をその場で追い返せばよかったと言いたいんですか?母親からいいと言われたという女の子を、放り出せと言いたいんですか?

 そこで僕に責任を押し付けられても困ります。」

「じゃあ、もういいだろう。俺が娘を連れて行っても文句あるまい?」

「いや、文句はありますよ。これはいわば、僕と春子さんの双方の同意があったうえで成り立っていた同居です。それを一方的な都合でなかったことにするなんてこっちが認めるとでも?」

「じゃあ!お前は娘に何かあった時に責任が取れるのか!!」

「責任。そう言っても色々ありますよね?でも、僕はこう答えます。『あなたよりは責任を取れる』」


僕が軽く睨みつけるようにしながらそう言うと、少し後ろに後ずさってしまう。


「適当なことを言うな!」

「別に適当なことを言っているわけではありません。人を養うくらいの貯金も収入もありますし、社会的な地位もあります。まあ、年齢に関してはどうしようもないですが。あ、これ通帳です。お確かめください。」


そう言いながら、今ある通帳の中で預金額が少なめのものを出す。

まあ、とはいっても一億以上は入っているのだが。


「どうしてこんな」

「大金を持っているのか、ですか?それは簡単な理由です。僕の父も祖父も大企業の偉い人ですからね。それに、僕自身アーティストとして活動しています。あなたも知っているでしょう?『星空深夜』くらいは。あ、『嘘だ』とは言わせませんよ?証拠が欲しければいくらでも提示しますから。

 そもそも、千雪がここに住んでいることぐらい、こまめに連絡を取っていればわかったでしょう?千雪は、春子さんとしか連絡をしていませんでしたよ。それで今更何を言うことがあるんですか?

千雪のことを知ろうと努力もせずに『責任は取れるのか?』って?笑わせないでよ。自分の娘がどうなっているのかも知らずに、自分は責任を取れると思い込んでる・・・・・・だけのくせにさ。

誰だって起きてしまったことをなかったことにはできないんだよ。出来るのは、それが起きないようにすることと、それが起きてからどう対処するか。

ここ日本より治安の悪い地域に連れて行って、何かあってもお金持ちなわけでも権力があるわけでもないから何もできない。そんな人が責任取れるわけないじゃん。

こんなに色々持ってる僕だって咲のことで何もでき責任を取れるわけじゃないのにさ。」


実を言うと、僕と千雪の幸せな生活を邪魔する部外者千雪の父に腹を立てているんだよね。

だから、容赦はしないし、最悪大人の力脅迫も辞さない構えだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る