夜空君、じゃあ、なんで……?





「……そっか。どうしても?」

「うん。」

「どうしても、ダメ?」

「うん。」

「どうして?」

「……千雪には、嫌われたくない。」

「そっか。でも、わたしは絶対に嫌ったりしないよ?それでも、ダメ?」

「……ほんと、ごめん。」


そう俯く夜空君は、ガラス細工みたいに、壊れてしまいそうで。でも、わたしが大好きな人だから……


「夜空君。これは、わたしのエゴわがままで、余計なお世話かもしれない。でもね、ここで聞いておかないと、夜空君が話してくれる日は来ないと思うの。ずっと一人っきりで抱えて、話さないと思うの。

夜空君。わたしのことをいくら卑怯だって言ってもいいから、話して!

約束を、破る人にならないで!」

「ど、どういう……」


正直に言うと、怖い。

こんな手を使ってまで聞きだしても、夜空君の心を軽くできないかもしれない。

うざいと思われて、嫌われるかもしれない。

でも、ここで逃げたくない。


「夜空君は、絶対に覚えてるよね?わたしの下着を洗濯の時に勝手にさわってて、そのお詫び・・・があったって。」

「ちょ、ほ、本気で?」

「うん。本当は、もっと大事な時に使おうかと思ってたんだけど。」

「ま、待って。」

「ううん。待たない。ねえ、夜空君。あの時の『一つ言うことを聞いてくれる』って約束、使ってないからまだ有効でしょ?だから、使わせてもらうね。

夜空君。お願いだから、全部話してよ。」


目頭が熱いのを感じるけれど、今はそんなことを気にしていられない。


「……はぁ……これはもう、逃げられないね。」


諦めたように、でも、どこか満足したようにそうため息を吐くと、「はははっ……」と笑う。


「ああ……また・・大事なところで負けた……

……うん。仕方ない。約束だから話すよ。」


夜空君はそう言うと、柵に体重を預けて、目を閉じる。

何かを思い出しているような、考えているような、そんな感じ。


「……あの日、僕は咲と喧嘩したんだ。それで、料理してたのに全部嫌になって、家を出た。その日は、両親ともいなかったから、僕が料理をしてた。でも、ちゃんと火は消して、包丁も片付けた。」

「じゃあ、なんで……」

「その日は、レンジの調子がおかしくて、危ないから使わないようにしてたんだけど、咲はそれを知らなかった。

 理由はわからないけど、咲は自分で作れる範囲のものを作ろうとしたんだろうね。それで、レンジを使った。」



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