夜空、君……





わたしは、目に溜まった涙を拭いて、急いで立ち上がると、鞄を掴んで、扉を雑に開けて、急いで廊下に出た。


夜空君はどこだろうか。早く、夜空君に会いたい。

会って、色々話を聞きたい。


何処にいるんだろう。


何処に……


「夜空のこと探してんの?」


家から出て数歩、急に車から声をかけられた。

何事かと思って声の主を見ると、そこにいたのは天輝さん。


「なんで、それを?」

「さっき、夜空を乗せて走ったから。」


つまり、この人は、夜空君の居場所を知ってる?


「何処に、夜空君は、何処にいるんですか!?」

「お、落ち着いて。そもそも俺はおまえを送ろうかと思ってここまで来たんだから。」

「ど、どういう……」

「いやね。あいつが車から降りるときに、このアルバム渡してきてな。それで、迎えに来た方がいいと思った。まあ、勘なんだけど。で、どうする?」

「お願いします!!」


わたしは急いで助手席に乗ると、シートベルトを締める。

すぐに車は出発して、スピードを上げていく。


早く、早く会いたい。

夜空君に会って、色々聞きたい。

その後の事なんか気にしないで、全部、ぜんぶ聞かせてほしい。


早く、早く……


二人の間に会話がない事とか、そんなことは関係ない。

ただ、急いで。






「着いたぞ。」


どれくらい経ったのだろう。

天輝さんの声に意識が現実に戻される。

そこは、夜空君の別荘の前で、大きな門が見える場所だった。


「あ、ありがとうございます!」

「ああ。頑張れよ。」


わたしが車から降りるときに発せられた、その言葉の真意はわからない。

けれど、


「はい!」


そう、わたしは答えた。





そんなに焦っていたのか、門も扉も開いていて、人の気配はない。

何処にいるのか。理由はわからないけれど、わたしにはわかる気がした。


自分を信じて、奥に進む。

そして、そこ・・に夜空君はいた。


「夜空、君……」


星空がよく見えるテラスに、夜空君はいた。

上を向いていた顔は、わたしの呟きに反応するように、こちらを向く。


一瞬驚いた顔をしたかと思うと、すぐに困ったような、何かを隠すような顔になった。


「あはは……恥ずかしかったから逃げてきたのに……天輝が犯人でしょ?」

「うん。」

「まあ、僕はこの通り大丈夫だからさ。心配した?」

「うん。」

「そっか。っていうか、待っててもちゃんと家に……」


もう、何かが限界だった。

わたしは夜空君に駆け寄ると、躊躇なくその胸に飛びつく。



……暖かい。あのアルバムよりも。


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