夜空君、文化祭の時間……



「はい。というわけで、このクラスの出し物は多数決の結果メイド喫茶になりました。」


その一言で、男子からは歓声が、女子からは怒声が上がる。

え!?ちょ!それは困る!

メイド服なんか着たことないし、恥ずかしいし!


「静かに!多数決で決まったんだから、文句言うな!」


担任の先生がそう声を上げると、教室がシーンと静まり返る。


「……続けろ。」

「はい。……じゃあ、まずはそれぞれの分担を決めましょう。じゃあ、まずは……」


ああ、決まっちゃった……

流石に、メイド服を着たまま夜空君と一緒に回るのは……


あっ!!?やばい!夜空君と休憩の時間揃えないと、一緒に回れないじゃん!!


どうしよう!!


「千雪、そんなに焦ってどうしたの?」

「恵果ちゃん、ど、ど、ど、どうしよう!」

「そんなに切羽詰まった表情でどうした?」

「よ、夜空君と休憩の時間合わせないと、い、一緒に回れないのに……」

「ああ、察した。それは、愛の力に任せるしかないね。」

「そっか……愛の力に任せて……って、できるか!」


無茶だ!!そもそも、わたしからの一方的な恋なのに、そんな素晴らしい力を発動できるわけない!!


「まあ、できないよね~。でもさ、どうしようもなくない?」

「うっ……」

「だったらさ、もう勘に頼っちゃいなよ。」


それしかないんだけどさぁ…………

絶対、時間合わないよ……













「夜空くーん!!」


昼休み、わたしは教室まで来てくれた夜空君に飛びつきながらそう言う。


「……どうしたの?」


手に持った弁当が入っている袋を気遣いながら、夜空君はそう尋ねてくる。


「文化祭、休憩の時間、一緒……」

「ああ、時間揃えないといけないもんね。僕のほうは午後に決めることになりそうだから、千雪のほうが決まったんならある程度は合わせられるよ。まあ、時間の関係で全部とはいかないかもしれないけどね。」

「そっか!!よかった!!じゃあ、ご飯食べに行こっ!」

「うん。いいよ。」


わたしはそう言うと、夜空君の手を引いて夏休み前にいつも使っていた中庭へと向かう。

もはや指定席となったベンチには、やっぱり誰も座っていない。


「夜空君!はーやーくー!」

「はいはい。わかったから。」


夜空君は手に持った袋から弁当箱と箸を二つ取り出すと、一つをわたしに渡してくる。


「ありがとう!」

「ん。どうぞ。」


夜空君はそう言いながら弁当箱を開けて、箸を手にもつ。


「「いただきます。」」


二人で口をそろえて何かを言う。それだけで少し口元が綻びそうになるけど、我慢しておこう。


「夜空君。」

「なに?」

「そういえば、そろそろ会長選挙だね。」

「そうだね。って言っても、文化祭が終わってからなんだけどね。」

「でさ、夜空君、会長の選挙に出るの?」

「んー、選挙には出ないけど、応援には回るよ。大翔さんが出るみたいなんだよね。」


あ、そっか。二人はいとこだって言ってたね。

そりゃあ応援するか。


「ふーん。じゃあ、夜空君は生徒会の役員になるんだ。」

「たぶんね。まあ、応援に行かなくても入試一位、テストも全て満点の僕を生徒会にいれないことはないと思うけど。」

「確かにね~。でも、生徒会に入ったら仕事が忙しくならない?」

「まあ、大丈夫でしょ。そもそも、今の作曲ペースがおかしいんだよ。」

「それは本当に思うよ。また新曲だすんでしょ?」

「まあね。でも、今回のは仕事っていうか、僕が出したくて出す感じかな。」

「アルバムのタイトルすら出さないのはそれが理由?」

「そうだよ。っていうか、本来はもっと早くにアルバム出すよーって告知しないといけなかったんだよねー。」


夜空君はそう言うと、くすくすと小さく笑う。


最近の夜空君は表情の変化が大きくて、見てるこっちも楽しくなるなぁ……



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