夜空君、お腹すいた!



「ただいまー。」


夜の八時。

夜空君のそんな気の抜けたような声が玄関から聞こえてくる。

わたしはソファーで寝転がった体勢から起き上がると、駆け足で玄関へと向かう。


「おかえりー!」

「ん。ごめんね、遅くなっちゃった。ご飯は?」

「食べてないよ。夜空君、お腹すいたからはやくー!」

「うん。じゃあ、手っ取り早く蕎麦とかでいいかな?」


わたしはとにかくお腹がすいたので、何度も頷いた後靴を脱ぎ終わった夜空君の手を引っ張って急がせる。

とにかくお腹が空いた!

まあ、ダイエットって意味では食べない方がいいかもしれないけど、やっぱりお腹は空くしね。


「そんな急がさなくても蕎麦は逃げないよ?」

「わたしのお腹が持たないの!」

「太るよ?」


その一言に、雷が落ちたような衝撃が走る。


「よ、夜空君?遠回しにダイエットしろって言ってる?」

「そうはいってないよ。ただ、夜八時以降に何かを食べると太るって話を聞いたことがあったから言ってみただけ。」

「夜空君が悪いんだよ!!こんな時間まで帰ってこないから!」

「仕方ないじゃん。咲に会いに行った後、アルバムに関する打ち合わせがあって、そのあとにライトノベルの方の打ち合わせもあって……」


そう言う夜空君の顔は少し疲れてる気がする。


「た、大変だったんだね?」

「そうなんだよ……どうせOKしか言わないのに『これからの展開』とかいろいろ聞いてくるんだよ?面倒くさいし話長いし……必要な話だけならあと一時間半は早く帰れたのに……」

「まあ、それも仕事だから、ね?」

「はぁ…………」


そんな面倒くさそうなため息吐かなくても……

まあ、気持ちは分かるけどね。


「あれ?そういえば夜空君っていつ仕事してるの?家で仕事してるの見ないけど。」

「引きこもってた間はずっと仕事してたし、昨日とかは千雪が寝た後に仕事してるよ。」

「……ちなみに、何時に寝てる?」

「二時に寝て、五時に起きてる。で、朝も仕事を少しする感じかな?」

「夜空君。今日は早く寝よう。そうしよう。」


そんな生活、わたしなら絶対耐えられない!

受験の時でも十二時には寝て六時に起きるって生活だったのに!それより過酷じゃん!!


「夜空君。過労で死んじゃうから……」

「そう思うんなら、千雪が家事スキルを上げてくれれば僕ももっと楽なんだけどね……」


うっ……

それに関してはわたしが全面的に悪いです。すいません……


「でも!最近では洗濯機回せるようになったし、電子レンジも安全に使えるようになったよ!」

「よーしよしよし。がんばりまちたね~~。」

「馬鹿にしてるでしょ!!?」

「してないよ。ただ、思考能力は小学生レベルなのかなーって思ってただけで。」

「それを馬鹿にしてるって言うんだよ!!」


わたしだって、やろうと思えば色々できるんだからね!

……一応。


ほら、やっぱり大人でも不得手なことってあると思うしさ、そう言うのも含めて個性だと思うし……夜空君みたいな完璧人間じゃないから、家事とかはできなくても仕方ない……うん。仕方ない。と、思いたい。


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