先輩、咲に相談です。



――ピンポーン


『……はい。どちらs……』


インターフォンの向こうから聞こえてきた声は、途中で途切れる。


「遊びに来たよ。」


僕がそう言うと、インターフォンの向こう側からガタンと大きな物音が聞こえてくる。


『ちょ!遊びに来るなら先に言ってよ!夜空!』

「ごめんごめん。で、ドア開けてくれない?」

『ああ、わかったわ。今行くから。』


そこでインターフォンからの声は途切れる。


……今日は咲に用があって来たんだけどなぁ……









「飲み物は何がいい?コーラ?コーヒー?イカスミジュース?」

「何で黒いモノ限定なの?というか、イカスミジュースって何?」

「あれ?夜空知らない?最近流行りなのよ~~、一部のおば様方が悪戯に使うようとして。」

「知る訳ないよね。あ、咲居る?」


僕は靴を脱ぎ終わると、そう母さんに尋ねた。

今日は咲を訪ねてきたからね。実際お母さんが居てもいなくてもよかったんだけど。


「ああ、咲ならリビングで勉強中。どうも数学が苦手らしくて。」

「そっか。中学程度の数学で引っかかるようじゃ僕と同じ高校はしんどいかな?」

「いや、夜空の学力が高すぎるだけで、咲も十分頭は良いのよ?」

「でもまだ中学二年生でしょ?二年生で躓くならやばいんじゃない?」

「お兄ちゃん、全部聞こえてるから。それに、私が今してるのは大学生レベルの数学だから。」


リビングの中から不機嫌そうな咲の声が聞こえてきた。

あ、聞こえちゃってたんだね。

僕はリビングの扉を開けると、中に入る。


「咲、ただいま。」

「ん。お兄ちゃんおかえり。」


僕は鞄をソファーの上に投げ捨てると、咲が解いている問題を見る。


「あー、なるほど。確かに難しいかもね。」

「でしょ?」

「でも、これなら暗算で行けるね。」

「え……」


えっと……


「うん。解けた。」

「早い!!合ってるか知らないけど。」

「たぶんあってるよ。で、咲が躓いたのは、たぶんここ。ここで使うのは……」

「あ、なるほど。そうすれば解けるのか……お兄ちゃんありがとう。」


まあ、これくらいなら余裕だし。

話を聞いてもらうためにも少しくらいの手伝いはしないとね。


「で、お兄ちゃん。なんで来たの?用もないのに来ないよね?面倒くさがってたじゃん。」

「うん。ちょっと相談があったからなんだけど……その前に。」


僕はくるりと後ろを振り返ると、椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいる……ように見せかけてこちらの話を聞いている母さんを見る。


「なーに?」

「母さん、スーパーでお菓子買ってきて。」

「ええ?お母さんを行かせるの?」

「うん。」

「まあ、かわいい息子の願いだもの。きいてあげましょう。ゆっくり行くから、時間かかると思うわよ。」

「うん。ありがとう。」


やっぱり物分かりのいい母を持つと楽だね。

……さて、厄介払いも済んだことだし、本題に入りますか。



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