先輩、どっちだと思いますか?



「あ、わかったかも。ちょっと直していい?僕これでもそこそこ絵をかけるからさ。」

「は、はい。全然いいですよ。」

「ありがとう。よいしょ。」


僕はとりあえずその場に座ると、その絵の手直しに入る。

とはいっても、大して直すところはない。でも、海らしさを出すのであれば………


「なんかさ、水っぽく見えないんだよね。波の感じが。だから、ここをこうして………うん。出来た。」

「えっ!?す、凄い!」


うん。元がよかったからかすごくよくできた。


「はい。返すよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「いや、むしろこっちが邪魔しちゃったね。あ、あんまりお願いするのも悪いけど、コピー用紙とかでいいから、何か紙くれる?」

「あ、はい。どうぞ。」


そう言って女の子は紙とバインダー、そしてペンまで差し出してくれる。


「ありがとう。じゃあ、ちょっと落書きするね。あ、そう言えば君は何か漫画とかは読むの?」

「漫画大好きです!特に、星空深夜さんの『春の記憶と想い』が!」

「お、本当に?ちなみに何のキャラが好き?」

「主人公の古波様です!!」


様とかつけちゃうんだ。まあ、それだけ好いてくれてる証拠なんだろうけど。


「オッケー。」


僕はそう言うと、水着にパーカーを羽織った格好の古波と、この女の子をモデルにして即席で創ったキャラのツーショットを描く。結構雑だけど、分かればいいよね。

そして背景には海と砂浜。ちょうどここから見えるような風景を描く。

最後に『星空深夜』とサインを入れる。


「はい、ありがとう。あ、これあげる。」


ペンを返し、今描いた絵を女の子に渡す。


「え?こ、これ………え!?も、もしかして、ほ、星空深夜さんですか?」

「しーっ。今日はプライベートだから秘密ね。あ、信じられないなら信じなくてもいいからね?」

「い、いえ。言われてみれば声が似てる気がします。」

「そっか。あ、僕そろそろ行くね。じゃ。」


僕はそう言うと、またあてもなく砂浜を歩き始める。

十分ほど歩いたところで、ふと足が止まる。




あれ?今の僕は『どっち』だ?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る