先輩、起きてますか?
意識が現実に少しずつ戻ってくる。
イスの感覚、無機質な天井……見慣れた部屋。
「んん……今何時?」
時計を見ると、既に時間は深夜二時。
僕はヘッドフォンをつけて、完成した曲を聴く。
うん……まあいいかな。
一応曲の出来に満足した僕は、ヘッドフォンを外して、「ふぅ……」と息を吐く。
「寝ようか…な?………先輩?」
部屋を出ようかと後ろを向くと、ソファーに先輩が横になって、すうすうと寝息を立てていた。
え?かわいい……
あ、そうか。見学するって言ってたんだった。
やっぱり作曲の後は記憶が曖昧になるなぁ……
しかしどうしよう……起きる気配ないしなぁ……
仕方ない。
僕はいつかのように先輩を横抱き……もとい、お姫様抱っこする。
ふわりと甘い匂いがして……
……ん?
なんか少し先輩の顔が赤くなって、体が強張ってる気がする。
そうして、少し緩んだようにも見える頬。
ここから察するに……
「先輩、起きてますか?」
「うん……ばれちゃった?」
「そりゃこんな近くで見たらわかりますよ。」
僕がそう言うと、先輩はぎゅと僕の服を掴んでくる。
…どうしよう。先輩を降ろせないんだけど……
「夜空君……なんかすごく、かっこよかったよ……」
「へ?」
「いつもと違う感じも、かっこよかった………………ねえ夜空君……」
先輩はそう言うと、僕の肩に顔をうずめてくる。
へ?ちょ?先輩!?寝ぼけてますよね!?
「夜空君は、わたしのこと…好き?わたしは、夜空君が好k………………すぅ……」
「先輩!?なんでそこで寝ちゃうんですか!?先輩!?」
そんな風に言っても、先輩はすうすうと寝息を立てるばかりで、起きる気配がない。
え?何なの!?先輩は僕が何なの!?
「す」?何?「す」って!!
まあいいや。眠いし、明日の朝直接聞いたらいいや。
何とかして、地下室の重めの扉を開けて、お姫様抱っこの状態のまま階段を上がる。
そうして、先輩の部屋のドアを開け、先輩をベットに寝かせる………が、先輩の手はしっかりと僕の服を掴んだまま放してくれない。
どうしよう………このままシャツを脱いで抜け出してもいいんだけど………
朝、後輩のシャツを握ってたら先輩、凄い驚くよなぁ……
うん。ちょうどいい機会だし、先輩の寝顔を見ようかな。
先輩の顔を覗き込むように、上から見る。
やっぱりかわいいなぁ……
どんなモノにもたとえられないし、特徴とかを月並みな言葉で言いたくもないくらいかわいい……
さらりとした髪を軽くなでると、先輩の表情が少し緩む。
なるべく気持ちよく感じるような撫で方を心がけてしばらく撫で続ける。
「ううん………」
先輩がむにゃむにゃと何かを呟いた。
「…………夜空…く……ん………」
「先輩……」
先輩は今、どんな夢を見てるのだろう。なんでそんなに、嬉しそうな表情をしているのだろう。先輩の夢の中に、僕の姿はあるのだろうか。
「先輩が、寝る前に寝ぼけながら僕に聞いたあの言葉。それの答えがまだだったので、しっかりと答えを言います。千雪先輩、僕はあなたが大好きです。好きじゃあ収まらないくらいに………」
寝ている先輩には、この言葉は伝わらないだろうけど、何となく、答えを出さないといけないと思ったから。
この『どうにもならない』思いを先輩に伝えたくて。
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