先輩、大袈裟ですよ!



「サインくらいならいいですけど、僕のサインなんかいりますか?」

「いるよ!!というか、夜空君は、もう少し『深夜』がすごい有名だって自覚を持った方がいいよ!!」


はあ……よくわからないな。


「で、何にサインすれば?」

「ちょ、ちょっと待ってね。」


そう言うと先輩は風のような速さで、リビングから出ていったと思うと、すぐに数冊の本を持って走ってきた。


「これにお願い!!」


そう言うと先輩は、持ってきた本のうちの一冊の白いページを開いて、ペンと一緒に渡してくる。

僕はさらさらっとその本の主人公のイラストとサインを書く。


「はい、どうぞ。」

「おお!!あ、ありがとう!!家宝にするね!!」

「しなくていいです。」


僕は先輩につっこみを入れた後、ペンを返そうとするが、何故かもう一冊本を渡される。


「これにもお願いできる?」

「………もしかして持ってきた本全部にさせるつもりですか?」

「い、いや?ち、違うよ?ただ、してくれればいいなぁって……」

「させる気じゃないですか………はぁ…いいですよ。サインするんで、待っててください。」


正直言って、めんどくさい。でも、かつてないほど喜ぶ先輩を見たら、拒否権などあってないようなものだと思う。


僕は結局十冊近くあった本すべてにサインを入れると、それを先輩に渡す。

すると、先輩はそれらをギュッと抱きしめる。


「わたし、もう思い残すことないかもしれない………」

「大袈裟ですよ、先輩。なんなら、発売日前のCDとかラノベとか、先輩にプレゼントしましょうか?」

「え?いいの?でもなぁ……夜空君に迷惑かかっちゃわない?」

「毎回十冊くらい来るんですけど、家族にくらいしか渡さないので、在庫が余るんですよ。」


捨てればいいんだろうけど、「せっかくくれたものを捨てるのもなぁ」って思う。


「じゃあ、お願いしてもいい?」

「いいですよ。あ、じゃあちょっと取ってきますね。」


僕はリビングから出ると、地下へと続く階段を降り、防音になっているので少し重く、分厚い扉を開ける。


本棚の一番下に置いてある段ボールを引っ張り出して、箱を開け、そこから二冊の本と、それの数量限定のおまけ、それと恐らく先輩が持っていないであろう、いつもとは違う服装のキャラクターのストラップを取り出す。


僕はそれを持っていこうとしたところで、気が付いた。


「先輩って、保存用と観賞用に二冊買ってたよな。」と。


僕は、もう一冊ずつ本を取り出し、それらをもって地下室を出る。


「先輩、これでどうですか?」

「え?二冊ずつ!?いいの?」

「どうせ使いませんからね。」

「ありがとう!!」


そう言って先輩は僕に抱き着いてくる。

うん。なんか悔しい。『夜空』じゃなくて、『深夜』が勝ったのが悔しい。どっちも自分だけど。


「先輩、ついでにこれもあげます。」


そう言って僕はストラップを先輩に差し出す。


「!!!これって!!!抽選で十人限定の!!スペシャルストラップ!?いいの!?」


!と?が多い………どんだけびっくりしたの?先輩……


「いいですよ。自分のキャラクターのストラップ使いませんし。」

「ありがとう!!夜空君大好き!!」


何だろう……この敗北感。

『夜空』も『深夜』も自分なのに、『深夜』の作った物の方が喜ばれただけでこんな敗北感が来るなんて………


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