先輩、言い間違えですよね!
いや、落ち着け、自分。
何も先輩は、僕が『星空深夜』って言ったわけじゃなく、星空深夜みたいって言っただけだからね?
ふう……落ち着いた。
さて、心配そうな顔で見ている先輩に何て言おうか。
「いえ……先輩が好きな歌手の方みたいと言っていただけて、凄くびっくりしたというか……うれしかったというか……まあ、びっくりして言葉が出なかっただけですので。」
「そ、そう?」
なんかもうしゃべりすぎて怪しくなってる気がするけど、勢いが肝心だと思う。
「ふふっ。夜空君が少し慌ててるの面白いね。ねえ、一つ聞いていい?」
「先輩がそう言って聞くときには良い予感はしませんがどうぞ。」
「夜空君って、『星空深夜』だったりする?」
やっぱりばれてたぁぁぁぁあああああああああああ!?
薄々「あ、こればれてるかも。」とは思ったけどさ!
ふう。叫んだら落ち着いたかも。
「なんでそう思ったんですか?」
「うーんとね、まず、声が落ち着くなぁ…って思ったの。」
「落ち着く?」
「うん。なんか、夜空君の声って落ち着くんだけど、わたし他の人の声だとむしろ嫌な感じがするから。それで、たまたま聴いた『星空深夜』の歌の声も落ち着いたから……それで、もしかして?って思ったんだけど、今夜空君が歌ったのと、同じだったから……」
え?つまり要約すると、『夜空』の声も、『深夜』の声も落ち着く感じがする。それで、何故か「あれ?似てる?」ってなった。それで、今歌を聞いて、「同じだよね?」ってなったと。
……うん。大して要約できてない。
…声、ね。
いや、どうしようもないでしょうよ、こればっかりは。誤魔化しようがない。
というか、先輩の聴力がすごいというべきだね……
僕は降伏の意を込めて両手を上げる。
「先輩、正解です。僕が『星空深夜』です。」
「やっぱりそうだった!好きな人の声だから、分かったんだよね……」
「え?好き?」
え?いま、好きな人の声って……
「え?あ!!い、いや、これは違くて、す、す、好きな声だから、間違わないって言おうと……」
「大丈夫ですよ、先輩、言い間違えですよね!?」
一瞬ドキッとした過去の自分を殴りたい。
あれ?でも、先輩今、好きな声って言ってたよね?
「うん、言い間違えなんだけどね、そうじゃないっていうか……―――――」
先輩の声はどんどん小さくなっていき、後半は聞き取れなかった。
「とにかく!夜空君!!君に言いたいことがあります!!」
「はい!!」
何となく大声出されると、大声で返事しなくてはいけないような気がするから不思議。
「なんでわたしが『星空深夜』のファンだって知ってたのに、言ってくれなかったの?」
「だって、自分から言うと、凄い自己主張の強い奴になりますし、何となく自分が『星空深夜』だって知られることに抵抗がありましたし。だって先輩、自分で作って歌った歌を、知り合いに聴かれるとか恥ずかしくなりませんか?」
「確かに……」
「それが理由です。」
「じゃあ、何で『星空深夜』って名前にしたの?」
「簡単な理由ですよ。」
そう、これはすっごく簡単な理由。というか、最初はこれのせいでばれたのでは?と思ったくらい。
「深星夜空って漢字を並び替えると、『星空深夜』ってなるでしょ?」
「ああ!なるほど!!」
先輩は、納得した様子で、手をポンッとたたいた。
「じゃあ、最後にお願いしてもいい?」
「なんですか?」
「わたしに………
……サインをください!!」
そう来たか!
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