先輩、カレーにしましょう!



「じゃあ、夕ご飯を作りましょうか。今日はカレーにしましょう。」


え?なんでカレーかって?教えやすいから。


「おー!」

「材料は出しておきましたので、僕が書いておいたレシピ通りにしてください。」

「りょーかい!」


そう言うと、先輩は包丁を持って……


「先輩?持ち方おかしいですよ?家庭科の授業でしなかったんですか?」

「え?わたし、包丁さわらせてもらえなかったから……」


ああ……なるほど。

その判断は懸命だと思いますよ。触らせなかった皆さん。



「では、持ち方から教えましょうか。こうです。」

「こう?」

「はい、そうです。では切っていきましょう。手は猫の手にして……そうです。」

「おおーこうか!!それっぽい!!」


先輩はそう言うと、包丁で野菜を切ろうとするが、切り方が悪く、うまく切れていない。


「なんでうまく切れないの?」

「切り方の問題ですね。」

「むう……あ、良いことを思いついた!後ろから夜空君が両手を掴んで一緒に切ってくれればいいよ!」

「へ?」

「はい決定!じゃ、お願いね!」


なんか勝手に決まってしまったが、それ、恋人みたいじゃないですか?

これを天然でやってるところが恐ろしい。


「はいはい。分かりましたよ。」


僕は先輩の後ろに移動すると、後ろから先輩の右手に僕の右手を、左手に左手をそれぞれ掴む。

一見すると、僕が後ろから抱き着いているように見えると思う。


「じゃあ先輩、切りますよ……」


そう言って僕は先輩の手を掴んでいる手に少し力を入れて、動かそうとするが、驚くほどに力が入っていない。


「先輩、もう少し力入れてください。これだと、切れません。」


返事がないただの屍のようだ……


「先輩?せんぱーい?先輩!」


どれだけ呼んでも返事がない。先輩はよくこんな感じで反応がなくなるが、これだけ呼んでも返事がないのも珍しいなぁ……


「先輩!せ!ん!ぱ!い!なんで返事がないんだろ………先輩!!秋川先輩!!千雪・・先輩!!」

「ひゃい!?」

「あ、やっと戻ってきましたね。」

「い、いま、な、なま……」

「なま?何のことですか?今日はカレーですから火を通しますよ?」

「そ、そうじゃなくて……ま、いいや。」

「? そうですか。先輩、今から切りますから、もう少し力を入れてください。」

「りょーかい。」


先輩の細い腕に力が入るのを感じる。

何か…こう…先輩のこういうところ、けなげな感じがしてかわいいんだよな。


そんなことを考えつつ、先輩の手を動かして、野菜を切っていく。

なにこれ。すっごいやりずらい。

先輩の手を切らないように気にしながら、野菜を切る。

さらに、先輩のいい香りがしてくるし、先輩あったかいし、集中できる要素がない。


これ、カレー出来上がるまで僕の精神力持つのかなぁ?


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