先輩、数学苦手なんですか?





僕がシャワーを浴びて、リビングに戻ると、先輩はリビングで夏休みの課題をしていた。

が、僕がリビングに入ると、こっちを向いて、少し心配そうな顔になる。


「夜空君、本当に大丈夫?」


これは、うなされたことを言っているのだろうな。


「そもそも大したことじゃなかったんで、もう大丈夫ですよ。心配かけてすいません。」

「いや、大丈夫ならいいんだけど………ほら、夜空君って、いっつもしっかりしてるから、うなされたりとかしてると、凄い具合悪いんじゃないかって思っちゃうんだよね。」


ああ、いっつも悪いことしてるやつが、普通にすると褒められるあれか。ん?なんか違う気もするけど……いっか。


「まあ、とにかくもう大丈夫なので、ほんと安心してください。それより先輩、ここからだと、課題のプリント空欄ばっかりに見えますけど、大丈夫ですか?」

「いや、駄目そう。」


うん、僕もそう思う。

だって8割くらい空欄だし。


「じゃあ、僕が教えましょうか?」

「え!?二年生の勉強も分かるの?」

「ええ、大体は。」


前にいとこと生徒会長のカップルに教科書を見せてもらって暗記、理解したのでたぶん大丈夫だと思う。


「やっぱり夜空君すごいね!この前のテストも一位だったんでしょ?」

「まあ、そうですね。失礼しますよ。」


そう断って僕は先輩の隣に座り、先輩の数学のプリントを見る。


なるほど、見た感じたぶん二年生になってからの公式が出来てないな。


「先輩、まずは公式から勉強しましょう。」


こうして、後輩が先輩へ勉強を教えるというおかしな展開は始まった。











「じゃ、区切りがいいので終わりにしましょう。」


そう僕が言って、時計を見るともう六時だった。


「ごめんね、わたしの勉強に付き合わせちゃって。夜空君にも課題あったでしょ?」

「あ、夏休み初日と二日目で終わらせたんで問題ないですよ。それより、夕ご飯作りますね。今日、僕は八時半から用事があるのでそれまでに色々終わらせないとダメなので。」

「うん、簡単なのでいいよ。本当に夜空君はすごいね、もう課題終わらせちゃってるなんて……」


そうかな?

本気出せばすぐに終わる気がするけど………

ま、いっか。夕飯作ろう。

僕はエプロンをつけると、冷蔵庫から食材を出した。

さあ、何を作ろうかな。









「「ごちそうさまでした。」」


僕と先輩は同時にそう言う。


「で、夜空君は何の用事があるの?」

「秘密です。」


これは、先輩にも教えられない。重要機密だからだ。

まあ、地下室に入られると終わりなのだけれど……


「ちなみに先輩はなんか予定があるんですか?」

「今日は『深夜』のネットでの生ライブがあるから。」


生ライブ。

それは、某SNSの機能を使ったもので、配信する側に対して聴く側がコメントすることができる。

それを利用して会話をしていく配信者もいるらしいのだけれど、僕はあまりそう言うのは好きではない。


「そうですか。じゃあ、風呂に入っちゃった方がいいと思います。」

「確かに。じゃあ、入ってくるね。」


先輩はそう言うと、風呂に入るために、リビングから出た。


ふう。いつまでごまかし切れるのだろう。

僕はそう思いながら、暫く先輩の出ていったドアを見ていた。



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