先輩、もう大丈夫ですよ?



先輩の家から来るときの二倍近く時間がかかり、僕はやっとの思いで家に着いた。


死にかけの僕は鍵を開けると、荷物を二階の先輩の部屋に運び入れる。


「お疲れ様。それと、荷物運んでくれてありがとう。」

「つ、疲れました……」


やばい、眠くなってきた……疲れのせいかな……

ちらりと時計を見ると、十二時前。


「先輩、すいませんが五時ぐらいまで寝ます……昼は適当に食べてください……」

「うん、本当に運ばせちゃってごめんね。」

「僕が勝手にしたことですから……」


あ、もう寝そう。

僕は部屋を出ると、自分の部屋に入る。

そのままベッドに飛び込むと、僕の意識は消えていった………









――――――








そこはただの闇しか広がっていなかった。

上も下もない。ただの空間。

光すらなく、どこまでが自分かどうかすら怪しくなってくる。


ぽつりぽつり


水が水面に落ちるような音とともに、遠くに小さな光の粒が現れる。

広がっていくそれはやがて僕の周り全てを包み込む。


僕がボンヤリとそれを見つめていると、いつの間にか目の前に小学校六年生の少女が現れた。


「咲……」


僕がポツリとつぶやくと、彼女はにっこりと笑う。


「――――ちゃん。お―――ゃん。」


そう彼女は呼びかけてくる。

その顔は、覚悟を決めた顔をしていた。

僕はその顔を見て、酷く胸が痛む。


「ごめん。」


僕がそう言うと、彼女と僕の間に炎の壁が生まれる。


彼女はにっこりと笑うと、炎に包まれていった。


「咲………」


そこで僕の意識は闇に沈んだ。









――――――











「――くん………夜空君!」


そんな声に、僕の意識は現実に引き戻される。

目の前に、ぼやけた輪郭が浮かぶ。


やっと目の焦点があった瞬間、僕の意識は一気に覚醒する。


目の前で僕の顔を覗き込むように心配そうな表情で見てきているのは、先輩だったからだ。


「お、おはよう…ございます。」

「おはよう。大丈夫?なんかうなさせてたけど。」

「よくあるんで大丈夫ですよ。それより起き上がれないんですが……」

「ご、ごめんね!」


先輩はそう言うと、少し赤くなりながら遠ざかる。

僕は今の時間を確認する。

四時か…

まあ、良い時間かな?


「じゃあ、ちょっと汗かいちゃったので、シャワー浴びてきますね。」

「う、うん。」


僕は一階に降りると、風呂場に行く。

ああ、咲の夢なんて見たの久しぶりだな……

お盆には顔出すかな。


冷た目のシャワーは僕の暗い感情を流してくれるようだった。


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