夜空君、ハイスペックだよね!



「ふう…おいしかった。」


わたしは夜空君の料理の味の余韻に浸りながら、ベッドの上でぼんやりとしている。

というか、本当に夜空君はハイスペックだと思う。

それに、あの声、なんか落ち着くし、かっこいいし、良い匂いだし……って、わたし、自分で思ってる以上に夜空君に惚れちゃってる!?


でもなぁ……惚れたとか抜きにしても、夜空君はかっこいいからなぁ……

そこら辺のアイドルも裸足で逃げだしちゃうくらいだから、わたしなんかじゃ釣り合わないだろうなぁ。


わたし、可愛くないし、変だし、背は低いし。

夜空君と全然釣り合わないよなぁ……


「はあ……」


思わずため息が出る。

と、その瞬間、手に持ったスマホから振動が伝わってくる。

わたしは慌ててスマホの画面を開く。


『今から歌います!!ぜひ聞いてください!

                              星空深夜』


その通知に、わたしは思わず小躍りしそうになる。


星空深夜。


デビューしてからまだ一年にもかかわらず、今日本で最も売れているアーティスト。

歌やライトノベル、漫画やイラストなど、その活動は多岐にわたる。

彼のすごいところは、毎日更新のライトノベルの連載に、隔週の漫画の連載。さらに新曲などの仕事をすべてこなしているところと、その独創性だと思う。

そうして彼は素顔を決して出さない。

前にライブをしたときは、鼻より上が隠れるマスクをつけていたし。

なんか青い髪だったし。


と、やばい。こんなこと考えてたら、歌の生ラジオ始まっちゃう。


わたしは急いでスマホを操作する。


よし、準備完了。

でもすごいなぁ……

まだ始まってもいないのに、五万人以上が聴いてる。

というか、凄い勢いで増えてってる。

ああ、もう十万人超えたよ。

凄いなぁ……


そんなことを思っていると、スマホの画面が切り替わった。


――来る!!


わたしがそう思ってから一秒ほど間があり、スマホから声が聞こえてきた。


『こんばんは。星空深夜です。今日は、歌おうかと思ってきましたけど、何を歌うかは決めていません。』


そんな澄んだ綺麗な声が聞こえてきて、わたしのテンションは爆発する勢いで上昇する。


『何歌ってもいいんだけど……あ、そうだ。歌いたい歌があったんだ。』


そう彼が言うと、一気にコメント欄の流れる速度が上がる。

もはやそれを目で追うことはできない。

やっぱりすごい人気!


『アルバム、〈石ころの恋〉の、〈今と昔を繋ぐ〉の歌詞と、〈目眩を呼ぶ歌〉の旋律に少しアレンジを入れて、それを合わせるとなんかいい曲になることが判明したから、それ歌います。』


彼がそう言うと、ギターの音が聞こえてくる。

続いて、ビブラートのかかった歌声が聞こえてくる。


その声に、わたしの心が震える。


何でこんなにも人を虜にする歌が歌えるんだろう。

彼にとって世界はどういうモノなんだろうか。

それを知ってみたい。

同じ景色を見てみたい。


そんな欲望が湧き出てくる。



曲が終わっても、彼の歌は耳から消えず、記憶に刻み込まれる。

何でかは分からない。

ただ、神様はきっと彼に、才能を与えたんだと思う。

モノを作る才能を、人を感動させる才能を。


でも、何故か彼の声は、夜空君に似ている気がする。

わたしの勘違いかもしれないけど、似てる。

二人とも、聞いているだけで人を落ち着かせる。そんな声を持っている……と思う。素人のわたしの感想だから、わからないけど。


『じゃあ次の曲は……〈ブックカバーを〉にします。』


ああ、この幸せな時間がもっと続けばいいのに。








――――――








「ふう。」


仕事の一つが終わった僕は、安堵の息をつく。


今日も無事に終わってよかった。

でもやっぱり先輩が家にいると思うと緊張するなぁ……

まあ、終わりよければすべてよし。

残りの仕事を終わらせますか。


僕はパソコンに再び意識を戻した。


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