夜空君、一人暮らしだよね?
わたしの心配は杞憂に終わり、夜空君はすぐに復活した。
「はあ……とりあえず、入ってください。」
よし!この勝負もらった!!
中に入れた段階で、わたしの勝ち!
「お邪魔しまーす!」
「スリッパはこれ使ってください。夕飯は食べましたか?」
「うん、空港で食べた。」
わたしが靴を脱いでスリッパをはくのを待ってから、夜空君は歩き始める。
やっぱり夜空君はさりげなく夕食のことを聞いてくれたりするあたりが、優しいなぁって思う。
そんなことをわたしが考えてると、夜空君は階段の横を通って、一つの扉を開ける。
「…夜空君って一人暮らしだよね?」
その部屋、リビングの清潔さに、思わずそんなことを言ってしまう。
「僕が一人暮らしだからここに来たんでしょう?」
「うん、そうなんだけどね…実際に来たの初めてだったし、一軒家で一人暮らしってすごいなって。部屋綺麗だし。」
わたしがそんな素直な感想を言っても、夜空君は動じない。
「あ、先輩。立ってないでソファーにどうぞ。僕は飲み物持ってきますんで。」
「あ、お構いなく~。」
「家に泊めてくれって言う人が何言ってるんですか?」
うっ、痛いところを的確についてくる。
それにしても、本当に一人暮らしとは思えないほどきれいだなぁ…
そんなに物がないのは一人暮らしらしいと言えばらしいけど、それ以外は誰か専業主婦でもいるのかと思ってしまうほどにきれいにしてある。
「先輩、面白いものなんかありませんよ?はいこれ牛乳です。」
「ありがとう!牛乳好きなんだよね。」
さすが夜空君。わたしの好みをよくわかってる!
「知ってますよ、それぐらい。三か月間ずっと振り回されてたんですから。」
「あれ?もしかしてわたしのこと嫌いだったりする?」
なんかそんな言い方聞いてると、すごいわたしが悪いことをしてるみたいに聞こえる。
確かに、友達が出来て、調子乗っちゃってた感はあるけど、そんな迷惑はかけてない…はず!
「だったらもっと早い段階で拒否してますよ。安心してください。先輩は良い先輩ですから。」
「先輩…か…」
そうなんだ…やっぱりわたしと夜空君はただの先輩と後輩なのかな…
「すいません。違いました。僕と先輩は友達でしたね。」
え?本当に!?
わたしがそう思って夜空君を見ると、その目は噓をついているようには見えない。
「そうだよね!わたしと夜空君は友達だよね!」
「はい、そうですよ。」
「わたしと夜空君は親友?」
「まあ……そうとも言えますね。」
「じゃあ、わたしが夜空君の家に泊ってもいいよね?」
「は…って、それは違います!」
むう…「はい」って言ってくれれば楽だったのに。
「ちぇっ、このままはいって言わせようと思ってたのに…」
「先輩、よーく聞いてください。男女で一つ屋根の下というのは、何か間違いが起こる可能性もあるんですよ。僕も男ですから。」
「え?夜空君なら大丈夫でしょ?」
そうわたしが言うと、夜空君はぴたりと固まる。
よし、あと一息!
「そもそも、わたしだって家事を覚えようとはしたんだよ?でも、駄目だったの。」
「は?」
「何故か全然できなくて…それ以来家で家事禁止に…」
あれは酷かった。
洗濯機が煙あげたり、新聞に引火したり…
「先輩、僕以外に誰かいないんですか?」
「本当はわたしだって夜空君に迷惑はかけたくなかったんだけど…わたし、そんな友達も親戚もいないから…結局ここしかなくて…」
わたしがそんなありのままの事実を言うと、夜空君は諦めたのか、はあっと息を吐いた。
「わかりました。僕の家に泊めましょう。でも、条件があります。」
「条件?」
なに?Hなこと!?
別に…夜空君ならいいけど…
「はい、条件です。それは、明日でもいいので必ずご両親に連絡を入れてください。流石に無断で外泊というのは良くないので。」
「へ?それぐらいでいいの?いいよ!」
少しHなことじゃなくて、ほっとした自分と、悔しい自分がいるのはなぜだろうか。
「じゃあ、先輩。まずは家を案内します。」
「らじゃー!」
そんなこんなで、わたしと夜空君の同棲が決まったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます