先輩、家事出来ないんですか?



「…夜空君って一人暮らしだよね?」


リビングに入った先輩がそんなことを言い出した。


「僕が一人暮らしだからここに来たんでしょう?」

「うん、そうなんだけどね…実際に来たの初めてだったし、一軒家で一人暮らしってすごいなって。部屋綺麗だし。」


ああ、確かにリビングは結構な頻度で掃除してるから綺麗ではあるな。


「あ、先輩。立ってないでソファーにどうぞ。僕は飲み物持ってきますんで。」

「あ、お構いなく~。」

「家に泊めてくれって言う人が何言ってるんですか?」


僕はそうつっこみを入れつつ、キッチンに入る。

確か先輩は牛乳が好きだったな……

僕は冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。

僕のコップのほうには、半分ほどにして、残りは作っておいたコーヒーを注ぐ。

先輩は苦いの苦手だからな…


僕がコップをもってリビングに戻ると、先輩はソファーに座りながら、きょろきょろと見まわしていた。


「先輩、面白いものなんかありませんよ?はいこれ牛乳です。」

「ありがとう!牛乳好きなんだよね。」

「知ってますよ、それぐらい。三か月間ずっと振り回されてたんですから。」

「あれ?もしかしてわたしのこと嫌いだったりする?」

「だったらもっと早い段階で拒否してますよ。安心してください。先輩は良い先輩ですから。」

「先輩…か…」


ん?なんかまずいこと言ったかな?なんか急に先輩からしゅんとしたオーラが…

あ…そう言えば…『わたしの友達は夜空君だけ・・だよ?』って先輩言ってた…


「すいません。違いました。僕と先輩は友達でしたね。」


そう僕が言った瞬間、先輩はぱあっと明るい表情になる。

やっぱり可愛い。


「そうだよね!わたしと夜空君は友達だよね!」

「はい、そうですよ。」

「わたしと夜空君は親友?」

「まあ……そうとも言えますね。」

「じゃあ、わたしが夜空君の家に泊ってもいいよね?」

「は…って、それは違います!」

「ちぇっ、このままはいって言わせようと思ってたのに…」


ちぇって先輩が言っても可愛いだけなんですけどね…


「先輩、よーく聞いてください。男女で一つ屋根の下というのは、何か間違いが起こる可能性もあるんですよ。僕も男ですから。」

「え?夜空君なら大丈夫でしょ?」


うぐ…痛いところを…


「そもそも、わたしだって家事を覚えようとはしたんだよ?でも、駄目だったの。」

「は?」

「何故か全然できなくて…それ以来家で家事禁止に…」


先輩、なにしたんだろう……

ただ、先輩に家事をさせてはいけないということはよーーーく分かった。

でもそれを認めると、教えるという選択肢がなくなって……

泊めることになるんだよなぁ…


「先輩、僕以外に誰かいないんですか?」

「本当はわたしだって夜空君に迷惑はかけたくなかったんだけど…わたし、そんな友達も親戚もいないから…結局ここしかなくて…」


ああ…察し…

というか、もうこれ僕が折れる以外の選択肢がないのでは?


「わかりました。僕の家に泊めましょう。でも、条件があります。」

「条件?」

「はい、条件です。それは、明日でもいいので必ずご両親に連絡を入れてください。流石に無断で外泊というのは良くないので。」

「へ?それぐらいでいいの?いいよ!」


はあ…この勝負、僕の完全敗北か…


「じゃあ、先輩。まずは家を案内します。」

「らじゃー!」


そんなこんなで、先輩は僕の家に泊ることになった。



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