先輩、過程を飛ばさないでください!



状況を整理しよう。

まず、今の僕に足りないもの。

それは…情報。

圧倒的に先輩の要求の目的、原因の情報が足りていない!


「何があったんですか?」

『うーんとね、父さんが海外で働くから、今日から海外に行っちゃって、母さんもそれについて行っちゃったの。』

「はい、それで?」

『泊めて?』

「先輩、過程を飛ばしすぎです。もっと詳しく。」

『わたし、炊事も掃除も洗濯もできないことに今気が付いて…』

「親戚の方は?頼れないんですか?」

『青森と福井だから、ちょっと頼れないかな。』

「誰か女子の友達はいないんですか?」

『わたしの友達は夜空君だけだよ?』


あ、察し……


「先輩、掃除、洗濯の仕方は教えますし、食事に関しては僕が毎食持っていきますから。」


先輩の家と僕の家は、徒歩で片道二十分ほどだ。通えないわけではない。

というか、先輩を泊めるとか、最悪いらぬ誤解を招く。


『でも……大変でしょ?』

「大丈夫ですよ。それくらい。」


先輩が来る方が疲れます。とは言えない。言ったら、最悪の場合先輩が「あれ?わたし、邪魔?」とか思っちゃうかもしれないから。

そうなるとめんどくさい。


『いや、そっちがいい。いや、ぜひ行かせてください。』

「先輩、何でそこまでこだわるんですか?」

『なんでも!』


いや、意味が解らない。

というか、先輩のすることはたまに(ほかの人に言わせればいつも)理解不能なのだが…そこには詳しく触れないでおこう。触れてしまったら、恐らく一時間は必要になってしまうだろうから。


「はあ…埒があきませんね。今家ですか?直接話したほうがいいと思うので、今から行きます。」

『いや、今……






 ……夜空君の家の前に居るの。』

「はあ!?」


僕はいまだかつてないほどの速さで階段を降りると、玄関を開ける。

すると、スマホを耳から離し、こちらを少し驚いた顔で見ている先輩がいた。

その手には大きめのバックを持っている。


「来ちゃった。てへ。」


先輩はそう言うと、軽く舌を出した。


可愛い。


「はあ……とりあえず、入ってください。」


入れたら負けだ…とわかってはいたけど、先輩をここで返すわけにはいかないからとりあえず入っていただこう。

まあ、多分もうこれは泊めないと収まってくれないパターンだろうけど。


「お邪魔しまーす!」

「スリッパはこれ使ってください。夕飯は食べましたか?」

「うん、空港で食べた。」


あ、先輩の動きが読めたかも。

まず、空港で両親と一緒に夕飯。その後、両親を見送る。

が、そこから家に帰る途中で家事ができないことに気が付き、僕の家に来る。

でも、変なところで真面目だから、連絡なしにチャイム鳴らすのはよくないと思ったのか、電話をかけてくる。

で、今に至る。と、こんなところだろう。


…なんでだろう。すごい正解な気がしてくる。

はあ…どう先輩を説得しようかなぁ……


僕はそんなことを考えながら、リビングに入る。




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