独り占い


 蕎麦屋を出た後、まだ昼過ぎくらいだったので、結局お寺に戻ることにした。特にこの辺りでやりたいことも無いし、峰授祭の後、直接バスに乗れるように荷物を回収しておく必要もあった。

 お寺に戻ると、広瀬さんは仕事で出かけているらしく、駐車場に一台あった車が無くなっていた。


 とりあえず、借りていた部屋に戻り、一人寝転がりながら考える。

 思いがけず、ともちゃんが生きている可能性を知った。

 しかし、元々は代峰さんの無事を確認するために来たのだった。もし峰授祭で代峰さんの無事が確認できたとして、すぐに帰ったほうがいいのだろうか。それとも、残ってともちゃんのことを調べたほうがいいのか。


 さっき聞いた話を思い出す。一年前のともちゃんの様子、不審な残業、代峰の人間、蜂・・・幾つかの要素が絡まり合っている。

 寝転がりながら考えるも、はっきり何かが分かるような状態ではなかった。

 まだ俺の知らないことがありそうだった。

(さて、どうするか)

 ふと、部屋の隅に置いてあった荷物が目につく。中にタロットカードを入れていたのを思い出した。


「情報が十分あるときに下すのは判断であって決断ではない。決断とは情報が無い状態で下すもの」

 本で読みかじって覚えていたフレーズを一人でつぶやく。

「そして決断を下す手助けをするのが俺の占いってわけだ」

 荷物からタロットカードを取り出して混ぜだす。

 情報が足りない以上、どうすればいいかを論理的に導くことはできない。それなら、こじつけでもなんでもいいから、判断の方針にでもなってくれればいい。

 あるいは、意識下の俺は気づかないだけかもしれないが、無意識下の俺ならば何か感じているかもしれない。昨日と今日、見聞きしたこと、そして過去の記憶から、わずかでも真相に近づけるかもしれない。カードを媒介として無意識の自分が何かメッセージをくれるかもしれない。


 座卓の上に広げたタロットカードの絵柄をよく見てから、裏にする。

 それから目を閉じてカードを混ぜだす。

(まずは、ともちゃんについてかな)

 彼女のことを思う。ともちゃんは今どうしているのか。

 全てのカードを触り、指にくっついて来るような感触のカードを探す。

 やがて指に引っかかるような感じのするカードを手にする。


 そのカードには、天使が人々の上で笛を吹いているイラストが描かれている。

 「審判」のカード。

 期待と不安が同時に胸にやってくる。鼓動が少し早くなった。

 このカードが暗示するのは、復活、回復、再会。まさに俺がともちゃんに求めているものだった。だが、カードには正反対の意味も含まれる。再起不能、悪い知らせ。本来は向きが正位置か逆位置かでどちらの意味か決めるのだが、今は特に向きは関係ない引き方をしていた。

(さて、これはどっちのことなのか)


 次にこれからどう動くべきかをもう一度無意識下に問いかける。

 再びカードを混ぜながら自分に問いかける。

(仮にともちゃん、あるいは代峰さんを助けることになるとしたら、どう動けばいい?)

 やがて俺の指が一枚のカードを選ぶ。


 馬車の上に立つ王の姿。「戦車」のカード。

「・・・しんどそうだな」

 勝利、征服、成功など積極さを暗示する正位置と、敗北、停滞、疲労という正反対の暗示の逆位置を持つカード。

 どちらにしても、これから積極的に動けと言っている。その結果が勝利か敗北か分からないが。

(お祭りを見てさっと帰るってわけには行かなそうだな)

 少なくとも自分の無意識はそんな簡単に済むとは思っていないということだった。

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