第2話 学徒の庭

メルシドの研究室を追い出されたアーロンとノルは、研究所の長い廊下を歩いていた。

「アーロン先生。あの、私……。」

「ノル君。話は後で聞こう。無能ノーカラーについての話はここではまずい。」

アーロンは足早に廊下を進む。ノルはアーロンについて行くのに必死だった。

「先生、やっぱ怒ってます?」

「いや、私はまだこの件の真相について知らない。ましてや君の事さえまだ深くは知らない様だ。」

アーロンは駄々をこねる子供のように顔をしかめた。

「気に食わないのはアカデミーの事だ。」


研究室ガーデンの入口から少女が手を振っている。

「あ、アーロン先生居たー!第5支部のレイラ先生が蓄積可能限界容量についてのレポートを提供して欲しいって来てますよー!」

「おはよう。エッセ君。レイラにお茶を出しといて。温室の気象調整はもう終わったのかい?」

「調整は全部終わってます。レイラ先生、サボりに来たっぽいんでティーガーデンでお喋りしててもいいですか?」

エッセが研究室ガーデンの扉を開ける。

「あれ。バイト君じゃないですか!一緒にお茶会します?」

エッセがノルに気付きペコリと小さなお辞儀をする。

「おはようございます、エッセさん。実は、アーロン先生の判断次第でこの研究班に配属になるかもしれないんです。」

ノルの挨拶を聞いてエッセが目を丸くした。

「えっ。えっ。研究員になるんですか?私が先輩?やった!」

エッセはそう言うと研究室ガーデンの階段を駆け上がった。

「まぁ、配属になるとは決まってないけどね。」

アーロンは困った様子でそう呟いた。



アーロンとノルは研究室の中にある応接間に居た。

「ノル君。まずは君がアカデミーに入学して2年で卒業した経緯を聞かせてもらおうか。」

アーロンは神妙な面持ちでノルに尋ねた。

「あー、はい。まず先生がご存知の通り私は、ハイスクールの学生でした。5月に入ってからアカデミーの見学授業があって、それ参加したのがのはじまりです。」

アーロンは何も言わずに聞いていた。ノルは1つずつ説明を続ける。

「その見学授業でアカデミーのガーデンに行きました。見た事も無い沢山の植物があってあちこち見て回ったんですけど、突然事故が起きて。」

「その件については覚えている。精製実験の触媒にアカデミーガーデンの植物が使わたおかげで私が育てた植物子供達が消し炭になった事件だろう。君も巻き込まれたのか。」

アーロンは悲しそうにそう言った。

「そうです。先生の植物子供達も、一緒に見学していた私の友人も何人か居なくなりました。」

「事故の後、負傷した学生はアカデミーに保護されてました。私もその1人です。」

「なるほど。アカデミーは人身事故を隠蔽してたのか。それで?」

ノルは目を閉じて、2年前の事を思い出す。

「私は負傷した学生、職員の中で1番最後に目を覚ましました。他の学生達もアカデミーガーデンも元通りに戻って皆は帰されたらしいんですけど、私だけ寝たきりのままでアカデミーの中に残されました。」

「歩ける様になってからはアカデミーガーデンと先生の研究室ガーデンを行き来する毎日でした。」

アーロンは疑問を抱いた。無能ノーカラーのハイスクールに通う学生彼等はアカデミーからしたら都合の良いモルモットだ。普通なら今頃、アカデミー本棟で実験材料にされているはずだ。それが何故アカデミーは2年間、この研究室ガーデンにバイトとして彼を送り込んでいただのか。何故、彼は無能ノーカラーでは無くなったのか。

「先程、アカデミーガーデンが元通りになったと言っていたが何ヶ月たっていた?」

恐らく、ノルはアカデミーに使われていただけだろう。アーロンは慎重に質問を選んだ。

「詳しい年月は分かりませんが、私が目を覚ました時にはほとんど元通りになって居ました。恐らく何ヶ月か、もしかすると1年位は経っていたと思います。」

「それはおかしいな。私は5月末に苗を届ける為にアカデミーガーデンに行っている。その時は半径5mほどの爆心地だけが消し炭になっていただけだ。」

話が噛み合わない。アカデミーガーデンはあくまで学校の場所だ。半径5m位なら苗でもなんでもすぐに植える事ができる。

「半径5m?アーロン先生、アカデミーには複数のガーデンがあるんですか?」

ノルが真剣な表情で尋ねた。

「いや、あそこには1つしか無い。」

「私は……私は、1階が丸ごと消滅したのをこの目で見ました。」

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国立魔法研究所第6番支部アーロン研究班日報 晴野 @haruno3987

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