第5話 竜馬配達人 その一
日没に近づいた太陽が織りなす美しい茜色とその街の入り組んだ街並み静かに交差し、影と光が互いを強調し合うような美しい時間。
————日没
竜馬が眠そうにブルル、と鼻を鳴らす。藁が敷かれた竜馬小屋のすぐ隣に隣接している小さな木造の小屋の中から盛大な驚きと驚愕が混じり合った二つの声が、美しいムードを作り出していた静かな街の隅々まで響き渡る。
「はあぁぁあああああああああ!!?」
「えぇぇぇえええええええええ!??」
————場面は家の中に移り変わる
その木造の家の中は爽やかな香りで包まれていた。なぜそんな匂いがするのかというとそれは、壁に掛けられ水分を抜かれてその香りを最大限に引き立たせるカラカラになったハーブ。そしてここ最近刈り取られてきたであろう薬草と抜かれてもなお生きるために自分の中の水分を逃すまいとしてきた、壁に脱力しきった人を思わせるしなりとした別の薬草。そして家の中のさまざまな場所に置かれている草花がその香りを実現している。
そしてそんな香りの中にポツンと置かれた木のテーブルの上に、ティーカップに注がれた、窓から差し込む茜色をゆらゆらと反射しているハーブティーが二つ。
そしてそれを手元に持ったままテーブルを挟んでの二人は大きく口を開けたままだった。
それは先程の街中に響き渡った大声を出した後、いまだ状況が読めないので思考をまとめて頭を冷静にしている最中だった。
そして二人は互いに咳払いをし、真ん中に置かれたテーブルに乗り出していた体を椅子にそっと収める。
ソシアは軽やかにうねった緑がかった黄金色の髪の毛を後ろ手にファサッ、とかきあげると目の前に置かれたカップを手に取り、香りの強いハーブティーを口に注ぐ。
口の中に注がれたその香りの強いハーブティーはすぐに口中、鼻中にその香りを拡散する。そして喉を伝って腹の中に収まると、体の中からその香りが織りなす熱を放出し体を温める。ソシアはそうしてハーブティーをじっくりと味わうとまだ香り高い液体が多く残っているカップを静かにテーブルに置く。そして爽やかな余韻に浸りながらもその口を開く。
「すまない、いきなり大きな声を出してしまって。まさか君が女とは思わなくてだな」
「えっ、あぁこちらこそごめんなさい。ボク、男の子みたいな服装してるからよく間違われるんですよー」
そういうとバレンは頭を触りながらテヘヘと笑う。そして先ほど着替えようとしていた床に置かれていた衣服を自分の前にひらりと持ってくる。そしてソシアに向かって、先程のようにならないために確認を取る。
「ボクが今着ている服、お仕事の時に着る服で……そのぉ、着替えてもいいですか?」
「ああ、良いぞ。先程は少し驚いてしまっただけだから。それに君が女の子だったら何も恥じることはないからな」
「ありがとう! ソシアさん!!」
バレンがその、男が着るような服装を脱ぐ。すると滑らかなくびれが下着で隠された小さな胸部に別の女らしさを与えた上半身が露わになる。ソシアの先程までの考えが一変し、バレンが女だということを決定づける。次にバレンは渋い色をしたズボンを脱ぐ。すると、綺麗な色の脚がスラリと抜かれる。ズボンが、ぶがぶかしていて隠されていたその美しい脚は窓から差し込む途切れそうな茜色を反射して艶めかしい色を放っていた。そしてバレンはズボン——ではなく薄い布で出来ているスカートを履く。スカートは膝より少し下まで下がっていたが彼女が少し揺れるたび、その艶めかしい脚はチラチラと顔を見せる。
そして着替え終えたバレンはこの小さい家壁に掛けられている金属の取っ手がついたろうそくを手にする。そしてそれをテーブルの上に置き、そのまま家の引き出しをあさり始めた。目的のものがないのかバレンが首を傾げてその場で立っていると、後ろで椅子に腰をかけているそっとソシアが呟く。
「……ファイア……」
すると、ソシアの指先に小さな一つの円の魔法陣(スペルアクター)が形成されそっと、ろうそくに火をつける。
すっかり暗くなった家の中を暖かい灯火が柔らかく包む。バレンは火がついたろうそくの火、に別のろうそくの芯を当てそのろうそくに火を宿らせる。そしてバレンは椅子に座ることなくそのままろうそくを手に持ち、小さな部屋の奥の方で、レンガで囲まれた石台の中に薪を入れその場に置いてあった鍋を上に乗せ火をつけ、コトコトと木でできた食べ物などをよそう時に使うスプーンでかき混ぜる。
バレンは鍋をゆっくりと混ぜながらソシアに声をかける。
「もう夜ですので今日は泊まっていきませんか? ちょうどルクも二人分ありますし」
「そうか……そうだな、それじゃあ泊まっていくことにしよう。料理もいただくとしよう」
「やったー! 実はボク、ずっと誰かと料理を食べたことがなくてずっと寂しくってー!」
バレンは本当に嬉しそうにそう答える。
そして温まってきた料理の匂いが漂ってくる。ハーブなどとは違う優しく、暖かい匂いだ。
そんな匂いが家中を支配した頃、十分に温まったのか木の食器を棚から取り出しその料理をよそう。
そしてそれをテーブルの上に置くと、食材がしまってある箱から二つのパンを取り出しテーブルの上にあらかじめ敷いてあった綺麗な布の上に置く。そしてバレンとソシアは手を合わせ——
「頂きます!」
「頂きます」
ソシアは木でできたスプーンを手に取り目の前に置かれている、『コル』と呼ばれている、羊の乳と野菜などをいれてじっくりと煮込んだそれを口に運ぶ。バレンはというと、早く感想が聞きたいと言わんばかりに目を輝かせてじっとソシアを見つめている。そしてソシアはバレンが作ったコルの感想を言う。
「うまい! とっても上手にできている!」
「はぁー、よかったー……このコルはボクの得意料理の一つなんですよー!」
ソシアはもう一口、コルを口に運ぶ。こってりとした濃厚な牛の乳のクリーミーさだけではなくその乳に少々溶け込んだ野菜が、具材として入っている芋などを優しく包み込み違和感をなくしている。鼻の中から抜けるその優しい匂いがまた食欲を増進させる。そして手元に置かれたパンをちぎりコルに浸して食べる。
粉っぽいはずのパンとコルを一緒に食べることにより、より一層パン独自の小麦の香りを引き立て、コルのこってり感がずっしりとそのパンに味をつける。
「本当にうまいなー」
「えへへ、そんなに褒められるとボク、ソシアさんに抱きついちゃいますよ?」
褒められたバレンは顔を赤らめてその可愛らしい顔で幸せそうに微笑む。そしてそんなバレンにソシアが依頼のことを聞く。
「バレン、君の依頼内容について聞きたいのだが? 少し、食べながら答えてくれないか?」
「はい! いいですよ、ボクの依頼のことですね!」
そしてソシアは料理を食べながら質問をする。
小説家になった勇者 最強賢者(ランク1)と竜馬の配達人 堕天使と天使 @datensitotensi
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