私のミスは貴方の命で埋める

 少し飛んだ地点で、異変に気づいた。私を迎えに来た彼らは、真っ直ぐに国連の現地本部に向かわなかったのだ。だらだらとなにかを"巻く"蛇行を繰り返し、ある地区でゆっくり旋回を始めた。私の記憶が確かならば、IN(アイエヌ)、イスラミックネーションと名乗る、某宗教の過激な原理主義の一派が、同胞のはずの現地民を武力で廃し勢力圏にした土地だ。


 ――旋回が合図だったのだろうか、砂ぼこりまで地続きに見える地面の一部が、静かながらも電気音をたててスライドし始めた。奥からでてきたのは、地下基地。


 しまった、というのが私の本音だった。しかしすぐに私は切り替えた。基地ここを潰せば、私は逃げられる。


 しかし……国連旗をつけたこの機体がINのアジトに収容されているこの風景は異常としか言えない。私は背中に回した剣についていた金属糸を外し懐に仕舞う。


 私が奇抜な術しか使えぬと思うな


 この機体をジャックしたときに破った扉から私は飛び降りる。乗っていた機体を三機ある機体のうちの一番私に近いものにぶつける軌道に乗せてのことである。


 シュッと音がして、ハンググライダーが展開された。私はそれを操りながら、残る二機に向かった。


 無線を傍受していると彼らの思考が手に取るようにわかる。私は私を爆撃しようとする一機に極端に接近し、左翼を叩き割った。


 グルグルと旋回し操縦不能になるかと思われたが、パイロットの腕がいいのだろう、戦闘機は煙を上げながらも基地に被害を与えないよう上手く軌道に乗り、遠くに墜ちた。


 もう一機が仲間の仇といわんばかりに接近してきたが、指令に止められ思いとどまり、私の方に唾を吐きかけてぐるりと回り、収納庫に向かっていく。


 私を警戒したのだろう、収納は迅速でただのグライダーでは追いつけない。しかし、追いつこうともしていない。


 地面から、対空砲が立ち上がった。それが一斉に私の方を向く。


 ――私を甘く見るな!


 グライダーから手榴弾に見せかけた塊を落とした。それは二の累乗で分裂し、同時に等方向に煙をまき散らす。私の姿を上手く隠したうえで、なにかに当たると金属も焼き尽くす炎が炸裂し延焼し、人を焼き尽くしていく。


 小さい頃、私を心優しい女の子に育てたかった父に見せられたアニメの、巨神兵にでもなったかのようだった。この快感が忘れられない。


「もう終わりなの?」


 あっけなく基地が壊滅できたことに私は戸惑いを隠せない。誰も知りえない新しい武器を持つことがこれほど戦局に有利に働くとは思っていなかった。


 しかし危惧もある。ここから一人でも人間を生かして帰せば、未知の武器が未知のままでありえない。


 わらわらとゴミ粒のように溢れてくる人間たちの群れに狙いを定めて、私は風を読み、ふわりと浮き上がった力を生かして滑空した。


 剣が疼いていた。人の血を欲していた。私は今に人を斬るからとそれをなだめる。


 私はこの世界の闇から生まれた闇そのものだ。誰にも止められやしない。

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安寧の蜜 春瀬由衣 @haruse_tanuki

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