仮想と仮葬と

多くのものが仮想化する時代では、死すら仮想化するだろうか?
などということを考えさせられる作品でした。

【良かった点】
・近未来の設定。
 現在、ネットの普及を背景に広がりつつある「広いパーソナル」。
 本作では、それをさらに発展させた世界感を描いている。
 将来こんな世界がくるのかな、と思わせるものだった。

・近未来を生きる少女たちの葛藤。
 上記の「広いパーソナル」の世界に生まれ、暮らす少女たち。
 他人とのつながりを仮想化し、充足する世界で、若い彼女たちは苦悩し葛藤してる。
 その線がよく描けていた。


【期待する点】
・おそらく作者は森博嗣のファンだと思う(私もファンなのでわかる)
 ともすれば、書く作品も森作品のパロディめいたモノになりがちだ。
 本作でもそういった場面が見られた。
 「私は森作品のパロディを書くのだ」という強い決心があるわけでなければ、改めたほうがいいだろう。

・主人公が主人公である動機。
 作品内でも主人公が自問する場面が何度かあったが、
 なぜ主人公が主人公なのか?という説得力が薄いように感じた。
 現実では偶然指輪を拾って王になる、という理不尽もあるかもしれないが、せめて物語には必然性を求めたい。

・ゲームの扱いについて。
 題材として「ゲーム」を取り扱う以上、ゲームの設定はもっと作りこむべきだ。
 それこそ、実際のゲームとして発売できるくらいの膨大な設定を求めたい。
 その膨大なバックボーンがあればこそ、作品がより輝くように思う。

・SF的ガシェットの扱いについて。
 近未来を設定にした作品なので、SF的ガシェットがたくさんでてくる。
 それは楽しくて良いのだが、どれも説明が長いように思った。
 ゲームを買ったときに説明書を読む人がいないので、最近のゲームは説明書がつかなくなった。
 その代わりにゲーム内でのチュートリアルが豊富だ。
 同様に、物語の書き方次第で、SF的ガシェット説明文は不要になるはずだ。