第110話 Merry Merry Merry ④

「けど宇佐美がハミルトンを使えへんのやったら、試合とかどうするん?」

 

 武尊の疑問も最もだ。当然その対策は考えてあり、これから報告となる。

 

「まずは宇佐美にハミルトンの代替機に乗り換えてもらう、詳しい事は整備士長の聖が説明する」

「聖です。先日スポンサー契約を結んだ九重弘樹様から、廃棄予定のラガーマシンを格安で譲ってもらいました。このラガーマシンにハミルトン用のアーマーパーツやTJの追加装備を取り付けて運用したいと思っています」

「ひとまずポジションはフロント、TJと入れ替えるつもりさ」

 

 ランニングバックでは無いのかという疑問が浮かびがちだが、従来のレバー操作ゆえ宇佐美の片足ペダリングでは難しく、比較的複雑な移動の少ないフロントに回る事となったのだ。

 その分慣れないパワー勝負にさらされる不安が付きまとう。

 

「という事はこのアテクシがラフトボールの華ことランニングバックになるわけですぅぅね!」

「いや、貴族はタイトエンドだ。代わりに娘の澄雨がランニングバックに入る」

「オォ!!」

 

 無駄に恥をかいた貴族。

 

「あの、いいですか?」

「お、心愛が意見を出すのは珍しいね。言ってごらん?」

「えと、ランニングバックなら速い方がいいんじゃないかなって、クイゾウとかリリエンタールの方がカルサヴィナより速いよね?」

「その通りさ、速さだけで言えばクイゾウやリリエンタールの方が速いけど、クイゾウが速度を出せるのはバイク形態の時だけで、しかもその時は手が使えないからボールを掴めない」

 

 それゆえボールを掴む時は人型に変形する必要がある。また最高速度がだせるのは直進する時という限定された状況故使いづらい。

 

「リリエンタールをランニングバックにする案は考えたけど、その場合ワイドレシーバーによる攻撃がクイゾウだけになっちまう、カルサヴィナではエルザレイスの投擲に追いつけないからねぇ」

「な、なるほど」

 

 ハミルトン程速度は出せないが、カルサヴィナはハミルトン以上に柔軟な動きができるので、新たな攻撃パターンを見出すという点では面白い試みかもしれない。

 

「というわけで、新たなフォーメーションに慣れてもらうためにこれからみっちりシミュレーター訓練をやってもらうからね」

「新しくシミュレーターを二台設置したので七人は同時に練習できるようになったよ」

「残りの五人は体力訓練、宇佐美は整備棟だ」


 その後、シミュレーター組と実地組に別れてキツめの訓練が行われ、宇佐美は整備棟で新しい機体の説明と装備品のチェックに勤しんでいた。

 新しいフォーメーションにも慣れてきた五日後の昼、ついに宇佐美の機体が納品されてきた。

 

 ――――――――――――――――――――

 

「名前はポルシェボーイ、フロント用にチューンされたパワー機体よ」

 

 聖と宇佐美が並んでポルシェボーイを見上げる。

 足元からして大きい、ハミルトンとは比べ物にならない程の太さと高さ、何より足が三本ある。尻尾というべきか、腰から三本目の足とも言える尻尾が伸びておりその巨体の支えとなっている。

 また聖の説明によれば足の裏にはローラーが仕込まれており、ロボアニメでよく見るローラーダッシュが可能となっている。これは宇佐美の片足不随を考慮して足を上げなくても良いようにしたとのこと。

 

「ギミックが下半身に集中してるんだね」

「ええ、なるべく操縦の負担を減らすために」


 全高は四メートル程、フロントらしく横幅が大きく腕も太い。負荷を減らすために肩周りはかなりゴテゴテに固めてある筈だ。シルエットはハミルトンと同じく丸みを帯びていてどこか動物的、頭部はアメフトのメットを元にしたデザイン、これもハミルトンと同じだ。ただアイシールドは入っていないため中の顔がダイレクトに見える。

 とても目付きが悪い。

 

「じゃあ早速実機訓練してみようか」

「わかりました」

 

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