第109話 Merry Merry Merry ③
正月も通り過ぎた一月の半ば、いつものようにインビクタスアムトのメンツが会議室に集まっていた。この日の議題はスプリングランドへ向けてという今後の活動方針を決める大事なものだった。
といっても、既に物事は決まっているので報告だけとなる。
「あたし達が目指すのはスプリングランド、今年から狙っていく事に異存はないね?」
コーチの恵美がホワイトボードに書かれたスプリングランドの文字を、指し棒で叩きながら尋ねる。皆顔を上下に揺らして肯定の意を示した。
「よし、そのうえで今あたし達に必要な事を列挙する。まずは」
ホワイトボードの上に『1,追加メンバー』と書いた。
「メンバーの増員は引き続き行うさね、とりあえずフロントが欲しいね、TJをフルアーマーにする事で対策はしてるが、元々バックスだからキツいものがある」
「おっとそれは聞き捨てなりませんねぇ、この高貴なる私が持てる財力の全てを使って更なるフルアーマー化を勧めて立派にフロントを勤めましょう!」
なんと頼もしい言葉。
「そいつは頼もしいねぇ、まあそこの貴族が言うのも一理あってね。それが次の必要なもの『お金』さ」
あまりにも身も蓋もなくて一同絶句する。
「こいつがないと装備も備品も修理もできない、これから先は素の状態で戦えるほど甘くはないよ」
「重量制限……ですね」
口を挟んだのは厚だった。スプリングランド出場経験のあるプロだからこそわかるものがあるのだろう。
「そうさ、始めたばかりの者はピンとこないだろうけどね。ラフトボールのほぼ全ての試合には重量制限が設けられているのさ。予め設定された重量を満たしてないと、ペナルティとして得点が半分になる」
「え、じゃあ僕のハミルトンとか大変じゃ」
「そうさ、軽量のハミルトンの装備は作るけど、それだと持ち味のスピードが全く活かされないだろうね」
「うわ、どうしよう」
「それはコーチのあたしが考えるさね。次は三つ目だ、お金を得るためにはスポンサーが必要だ、そのスポンサーを得るためには」
ホワイトボードに『3,実績』と書く。
「ま、認められたければ信頼が必要てことさ」
あまりにも当然の事である。スポンサーだって利益があるからこそ契約をするのだから、その実績が無ければ誰も近付こうと思わない。
現状、契約しているスポンサーは全て九重グループのコネで付いてるものしかない。ここからは自力で獲得して行く必要がある。
「というわけで今月末から色々な所で大会に出場して実績をつくるよ」
スプリングランドの予選が八月、予選出場のための審査が七月、これから約半年使って実績を作り続けるというわけだ。
「なんやチームぽくなってきたな」
「自分テンション上がってきたっすよ」
「直近のだと何処があるのかしら」
「でもでも、宇佐美がいればいけるよね!」
「確かに宇佐美んがいれば余裕でありやすよ」
徐々に盛り上がるメンバー達、反して宇佐美はいたたまれない表情でそれを眺めている。
宇佐美は気付いていたのだ。とある問題を、というよりハミルトンに関係する問題点を知っているからこそ苦い気持ちを抱いていた。
中々言い出し辛い空気だが、気にもとめずに恵美がその問題点を告げる。
「言い忘れてたけど、五月入るまでハミルトンは公式試合で使えないよ」
「「「「「えっ!?」」」」」
「忘れてたあああああ!! そうだったあああああ!」
あまりにも唐突すぎて理解できていない武尊と心愛と炉々と漣理とクイゾウ。そして絶叫する祭。
ある程度ラフトボールの情報誌を追いかけている他のメンバーはわかっていたという顔で頷いていた。
わけがわからないというメンバーのために、恵美が改めて丁寧に説明する。
「ハミルトンのACSが認可されたのは去年の五月、規約によると新システムや新機体は認可が降りた一年後から使用可能となるんだ。
つまり四月まではハミルトン抜きで大会にでるしかないわけ」
そして審査が始まるのは七月、六月までの実績を元に審査されるのでハミルトンを使えるのは最後の二ヶ月のみ、ほとんどをエース抜きで戦い抜く必要がある。
「む、無理ゲー」
誰かが言った。
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