第104話 Battle against adversity ⑩
インビクタスアムトが出したエース対策は至って簡単なものだった。ずばりエースを倒さないだ。
こと今回に限れば新しい操縦システムを使いこなせていないメンバーばかりで、実質インビクタスアムトの新人達と実力は大して変わらない、エースが唯一の驚異と言っても過言ではないだろう。ゆえにエースを一時的にでも動けなくするだけで点を取る事ができる。
さらに注目を集め始めたハミルトンを囮に使えば不意もつきやすいはずだ。
『エルザレイスの投げたボールを追ってリリエンタールとクイゾウがおいかける! 果たしてキャッチするのはどちらだ!?』
バイクに変形したクイゾウがフロントの空けたルートを通って爆進し、リリエンタールが外側から周りつつボールへ迫る。今のところクイゾウの方が先に到着するが、クイゾウは止まることなくバイク形態のままエンドラインへ突っ走る、否、正確にはエンドラインを守るフルバックへ突進しようと言うのだ。
時速六十キロメートルを超えた体当たりは凄まじいものであるが、直進したため容易に対応されてしまい、フルバックにフロント部分を掴まれてしまう。
『ああっと! これはフルバックも抑えられた形では!?』
『これは仕方ないでしょう』
そう、あのままクイゾウを躱せば後ろからクイゾウにホールドされていたので、正面から止めるという選択肢しかとれなかったのだ。またクイゾウの馬力はかなり高く、さらにスピードも乗っていたためフルバックはそのまま硬直してしまった。
直ぐに硬直はとけるだろうが、その硬直が溶ける前に。
『決まったあ! リリエンタールがボールをキャッチしてエンドラインを超えました! 本日三回のタッチダウンのうち二回をこのリリエンタールが決めた形となります』
試合終了二分前、二十一対二十の一点差。キックをいれれば同点となる。
『これは延長狙いでしょうか』
『いえ、どうやら一発逆転狙いのようです』
――――――――――――――――――――
追加点取る前にインビクタスアムトがタイムをとったので簡単に作戦会議をしている。
『みんな、よくやってくれたわ。ここまでは作戦通りだけど肝心なのはここから』
祭がメンバーを労い、そして次の作戦を改めて確認する。
『作戦はさっき伝えた通りにやるわ。キックじゃなくタッチダウンをとる!』
通常タッチダウンをとったら、追加点をいれる事ができ、そこでキックしたボールをゴールにいれれば一点が加算される。しかしここで再びタッチダウンをとれば二点を取る事ができるのだ。
『試合終了間際にしたのも幸をそうしたわ、下手に逆転してメンバーを更に強いのと変えられたら厄介だもの』
もし余裕をもって逆転した場合、弘樹は更に一軍メンバーを投入してきたかもしれない、試合終了間際にする事で手を出させないようにした。たとえこのタイミングで変えたとしてもアップの終わってない機体とパイロットでは逆効果だろう。
『当然向こうの反撃も激しいと思うわ』
追加点の時はクォーターラインから仕切り直す形で始めるからどうしても守備が硬くなる。ハーフラインから始めるよりも乱戦になりやすい。
『秘策はあるわ、必ずとるわよ! そしてあのデブにギャフンと言わせてやるのよ!』
完全なる私怨である。
――――――――――――――――――――
『やはりインビクタスアムトはタッチダウン狙いのようです』
解説の甲斐が言った通り、インビクタスアムトはキッカーを配置せず、機体を前に寄せてフロントの壁を厚くしていた。
しかしただフロントを厚くしただけではない、なんとレオニダスの大盾がカルサヴィナの手にあったのだ。
『カルサヴィナの手に大盾! これはどういう事だ!?』
『レオニダスの両手をフリーにするメリットの方を選んだということでしょうかね』
ボールがドローンによってティーへセットされる。あとはエルザレイスがボールをとれば試合再開となる。
『おそらくこれがラストプレー、見逃せないファイトがここにある!』
エルザレイスがボールをとる。同時に両チームのフロントがぶつかり合って力の限りをつくす。ギアはこれでもかと回転音が激しくなり、エンジンはオーバーフローでもするのかと思える程熱くなっていく。
排熱は増え、最早ここだけ熱帯地方のような様相を見せていた。
ビートグリズリーのバックスは両サイドを警戒しながらフロント機体を後ろから押し、インビクタスアムトも両サイドを警戒しながらフロント機体を押していた。
その間、エルザレイスとハミルトンは微動だにせず様子を伺っていた。フロント機体の押し合いは過熱していく。
『今よ!』
エルザレイスの手からボールが放たれ、ハミルトンの手に。
『やはりハミルトン! 最後はハミルトンの超スピードが唸りをあげる!』
エルザレイスはそのままフロント機体を押し始め、代わりにソルカイザーが後ろに下がってハミルトンの前で手を組む、それはまるで足を引っ掛けたら持ち上げるかのような構えで、実際その通りハミルトンはソルカイザーの手に足を乗せ、ソルカイザーはハミルトンを空高く放り上げた。
『ハミルトンが跳んだああああ!』
ジャンプしたハミルトンは密集したフロント機体の元へ落ちるかと思われたが、直前にカルサヴィナがレオニダスの大盾を投げてハミルトンの足場にしたのだ。掴まれにくいよう外側を下に向けて。
大盾に乗ったハミルトンはまるでサーフィンをしそうだったが、生憎宇佐美はサーフィンをした事がないので大盾を足場に再びジャンプした。
この時大盾の下からクリシナのネコチャンが押し上げていたので、僅かだが確固とした足場となっていた。
『は、ハミルトンが壁を跳び越えた!』
フロントもバックスも全て後ろにいる。距離が近いため普通なら直ぐに掴まれるだろう。しかしハミルトンなら、ハミルトンのスピードなら、また跳びながらブーストを起動したとするなら、着地と同時にブーストを吹かせて爆発的な初速でエンドラインへ走り出す。
『タッチダアアアアアウン!! 二点獲得してインビクタスアムトが逆転したあ!!』
そしてハミルトンが二回目に跳んだ時点でタイムアップ(タイムアップしてもボールがフィールドに落ちるまではゲームが続行される)したため、延長戦も無い。
ゆえに。
『試合終了! 勝利したのはインビクタスアムトだああああ!!』
これがインビクタスアムトの初勝利であった。
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