第68話 Bye Bye Friend ④
ハミルトンが最初のタッチダウンをきめると、紅チームから士気の向上を告げる勝鬨が上がった。反面白チームはそれをモニター越しに静かに眺めている。
「やはり宇佐美君は強いわね」
白チーム代表の祭がわかっていたと言わんばかりに呟く、少し前までは真っ直ぐ走る事しか出来なかったのに、今ではちゃんと回避行動やスピードの強弱までできるようになっている。
ボールを持つ手もしっかりしており、うっかり取りこぼすような事はないだろう。
正面からぶつかって勝てるのは瑠衣ぐらいだろう。その瑠衣は敵側にいる。
「まあこの辺は想定内ね、どんな感じ心愛?」
「うん、さっきは全然動けなかったけど次からはちゃんとできるよ」
「無理しないようにね、それじゃあ皆、向こうは同じく宇佐美君で来ると思うわ、そうなったらさっき伝えた作戦をやるわよ」
「よっしゃ任せろ」
景気よく返事するチームメイト、作戦はつまりハミルトンに張り付いて動きを妨害するというシンプルなもの。これだけでこちらの攻撃頻度は上がる筈である。
気分を変えてゲーム再開、白チームのキックオフから始まる。
ボールを蹴るのは中学時代サッカー部だった武尊だ。実際インビクタスアムトにおいて一番脚技が上手いのは彼だ。
「ついにワイの見せ場がきたやん」
「早く蹴れよ」
健二に急かされて渋々蹴る。元サッカー部だけあってキックモーションは滑らかで無駄が無い、キックモーションに関しては武尊自身大分こだわっており、8パターンも用意してあるらしい。
宇佐美にボールが渡るのを阻止したいが、こちらからキックしてボールを相手陣地に入れる以上それは避けられない、ゆえになるべく時間を稼ぐためボールは高く浮き上がらせて大きな放物線を描かせて陣地の端へ落とす。
なんとキックしてから着地するまで実に10秒もかかった。
『このまま攻めるわ! 健二君は前にでてライドルを引き付けて、武尊君はドスコミちゃんを、クイゾウと枦々はボールをとって攻めて、心愛はアレの準備、澄雨はハミルトン、私は勇者もどき!』
キックした瞬間から全員が行動しており、祭の指示は聞き終わらぬ内に実行していく。健二は一度組み合ったジックバロンから離れて武尊と交代して前にでる。
クイゾウはバイクに変形して高速でフィールドを駆け、途中で枦々のヘイクロウを背中に乗せて相手陣地に入り込んだ。ここでようやくボールが着地した。
一般的にラガーマシンが自陣エンドラインから相手陣のエンドラインまで平均約10秒らしい、つまり大体のラガーマシンは10秒あればほとんどの行動を終えることができる。
『ハミルトンを抑えます』
澄雨の透き通った可愛いらしい声が白チームの通信にのった。直後ハミルトンの身体にカルサヴィナの身体が巻きついていたのだ、文字通りカルサヴィナが後ろから抱き着くようにして。
太めの脚部は展開して中から腕が伸びてハミルトンの脚を抑える。上半身は密着してガッチリホールド、両腕はハミルトンの二の腕を巻き込むようにして前に回してクロスし、両肘を掴む。
これによりハミルトンは完全に動きを止める事になる。
『なるほど、これが澄雨ちゃんのプレイスタイルなんだね』
密着しているハミルトンから接触通信が入る。
『えぇ、割と嫌われるんですよね』
『ハハ、まあ気持ちはわかるかな、でも面白いプレイスタイルだと思うよ。僕は好き』
『……そうですか』
少しドキッとした。音声のみの通信で良かったと澄雨は心の底から思った。きっと今は変な表情を浮かべているから。
フィールドの一部で2人が親交を深めている間もゲームは進んでいる。
『ボールとったでありやす!!』
『貴族が行ったぞー! 殺せー!』
『健二君は貴族に恨みでもあるのかしら……あるわね』
ボールを最初にとったのは枦々のヘイクロウ、クイゾウの背中に乗って恐ろしい速さでの到着だ。クイゾウはヘイクロウを投げ捨てる用に降ろしたあと、自信は向かってくるT,Jの対処におもむく。
『自分が抑えてる間に早くっす!』
T,Jが姿勢を低くしてクイゾウにタックルする。教本通りの綺麗なフォームだ、言動はアレだが漣理は基本を忠実に守る真面目なタイプゆえ基礎がよくできている。
ただそれはクイゾウの操縦者である七倉奏も同様であり、基本に忠実なタックルに対し、奏は基本に忠実な姿勢でそれを受け止めた。
『ぐぇぇ、ウンコを押し付けられたっす!』
ちなみにT,Jの頭は本人曰く角である。ウンコではない。
『あざっす! クイゾウ』
クイゾウがT,Jを押さえつけている僅かな間にヘイクロウが横を駆け抜ける。あとは前に出てきた武尊のアリと共にFBのライドルを抜けるだけである。これが一番の鬼門であるのだが。
『ワイがタックルするわ! その間に頼むで!』
普通に考えるとそうなるだろう、アリの方が突進力が高いのだから。しかし枦々にはアリがライドルのロッドを掻い潜れるとはとうてい思えなかった。ゆえに。
『いや、あっしがいきやす!』
そう言って枦々は持っているボールをアリにパスしてから背中に装備しているセンスバチを両手に持つ。
太鼓のバチのような外観で頑丈そうな作り、長さは2m程とそれなりに長い。
『実はまだ慣れてないので心配でありやすが、まあ上手くやってくだせぇ』
『ウイっす!』
センスバチを手にライドルの前に立つヘイクロウ、そのままセンスバチでロッドと対抗するのかと思いきや、両手を横に広げて大の字になった。
そのままセンスバチを軽く振った、そうするとセンスバチが2倍の長さまで伸びて4mとなってから大きく展開し始めたのだ。文字通り展開である、扇子のように広がりをみせたのだ、2本分もあればまるで蝶のように見える。
扇子と撥でセンスバチというネーミングらしい。
『今やあああ!』
センスバチはただ威圧するだけではない、その後ろから来るランナーを隠すために展開したのだ、そのためライドルはどちらから来るのか判断がつかず、またアリの動きに合わせてセンスバチでライドルの視界を隠すゆえ虚をつかれていた。
その隙にアリがセンスバチから飛び出してライドルを抜ける。流石はベテランというべきか、素早く反応したライドルがロッドでアリの脚を掬うが、アリの腕はエンドラインを捉えておりタッチダウンをとっていた。
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