第67話 Bye Bye Friend ③
「それじゃ紅白戦始めるよ」
機体紹介が終わり、ごく一部の人間のメンタルが回復した段階で恵美から紅白戦を告げられた。
恵美自身、生で彼等が動いているところは見たことがないので紅白戦の流れは当然といえる。
「チーム分けはあたしの方で用意しておいた。各自の機体に登録してあるから準備が出来た奴からフィールドに来な」
『『はい!!』』
こうして恵美コーチによる初指導が始まる事となる。
チーム分けは以下の通り。
紅チーム
白チーム
CF、枝垂健二、クレイ。
F、原武尊、アリ。
CB、武者小路枦々、ヘイクロウ。
FB、水篠心愛、クリシナ。
以上となる。
――――――――――――――――――――
「6対6じゃないのか」
健二は自動操縦でクレイをフィールドに移動させながら、チーム分けをコクピット内で眺めてそう呟いた。
その呟きはそのまま通信機を通して健二の白チームへ伝わる。
「向こうには宇佐美君がいるから、攻撃力で劣るこちらの人数を増やしたんだと思うわ」
「なるほどなあ、ところでリーダーは九重でええんか?」
「みんながそれでいいなら」
「私は祭ちゃんがいいよ」
「あっしは当然姉御でさ」
「私はそもそも新参者なので皆さんに合わせます」
という流れで白チームのリーダーは祭に決まった。
早速祭は即興でたてた作戦を説明する。
「まず一番気をつけるべきなのは」
「ハミルトンか?」
「ええそうよ」
これに関しては説明は不要だろう。このチーム唯一のランニングバックにしておそらく全ラガーマシンの中でも最速の部類に入る機体である。最近始めたばかりの素人に止めることは困難だ。
「ハミルトンがボールを持ったらまず間違いなく点を取られるわ」
「わ、私が止めるよ!」
フルバックの心愛が力強く宣言するも、誰も信用する者はおらずスルーされた。心愛の実力を知らない澄雨ですら空気を読んで黙るしまつ。
流石の心愛もこれには凹んだ。
「うぅ……」
「だから最優先すべきはハミルトンへのパスを阻止する事よ、幸いこちらの方が人数的に有利だから1人は貼り付ける筈よ」
「でしたらその役目は私がやりましょう」
名乗りを上げたのは澄雨である。彼女のカルサヴィナは妨害を主とするらしいので適材適所といえる。
「わかった。まだあなたの実力を知らないからやり方は任せるわ」
「おまかせを」
「攻撃は私とクイゾウでやるわ、それじゃ行くわよ」
各々がポジションに付くと同時に紅白戦開始のカウントダウンが始まった。機体モニターに表示される数字が0に近づくにつれて緊張が強まる。
そして0になると、フィールドの真ん中に設置されている射出機からボールが弾き出されて空高く舞い上がる。同時に射出機はハーフラインを滑ってフィールドの外へ移動した。
空へと跳ね上がったボールはクルクルと回転しながら風に流されて健二から見て右へとズレていく。不意に目の前が赤く染まった。正面で睨み合っていたジックバロンがボールを取ろうと跳び上がったのだ。
「やべ!」
このままジックバロンにボールをとられたら、開幕早々にハミルトンへパスを出されてしまう。出遅れを感じた健二も慌ててジャンプするが。
「だめ!」
「はぁ?」
直ぐに祭が制止をかける。しかし既にジャンプ機動に入っていたため止められない。何故祭が止めたのかはわからないが、ボールを取られるわけにはいかない、機動力はクレイの方があるのでジックバロンより早くボールを取れる筈だ。
狙い通りなら。
「届かない!」
ジャンプタイミングが早すぎたのだ、ブーストを使おうにも降下機動に入ってしまっては意味が無い。
ジックバロンが早く跳んだのはこれを狙っていたからだった、更にジックバロンは小さくジャンプしていたようで、既に着地している。
そしてクレイと入れ替わるようにしてジックバロンが跳んでボールを掴み、落ちる前に後ろへと投げる。
その先にはT,Jがおり、T,Jはボールをキャッチすると健二から見て左へ移動してからボールを右真横に投げる。
「くそ! やられた!」
健二が毒付く前でハミルトンがボールをキャッチして前へと出る。健二が迎え打とうと構える矢先にジックバロンが前に立って視界を塞ぎ、ハミルトンの動きが見えないようにした。
「ど、どっちからくる?」
考えてしまったのが悪かった、動きを止めた瞬間に右横をハミルトンが駆け抜けていく、更に追いかけようとしたクレイの肩をジックバロンが掴んでそのまま地面へと押し倒した。
まさに経験の差が如実に現れた攻防だった。
ハミルトンはそのままフィールドを駆け抜ける。
「動画で観るより速く感じます」
本来妨害につく筈の澄雨は予想外に速いハミルトンの動きに戸惑いを隠せないようで見逃してしまう。無理もない、高速で迫るものを正面から観ると威圧感やらが押し寄せて通常より速く感じてしまうものだ。
その点普段から見慣れてる祭やクイゾウは対応が早かった。
すぐ様エルザ・レイスの右隣にクイゾウが並んでハミルトンの進行を妨害するが、機動力が違いすぎた。ハミルトンはスキップを軽く見せるだけで難なくエルザ・レイスの左側から抜ける。
エルザ・レイスの左腕は右腕がぶら下がってる状態で、肘が手先となっているので捕まれる事はない。宇佐美はそれを狙った。もしエルザ・レイスがクイゾウの右隣にいたなら違う結果になっていたかもしれない。
ハミルトンはそのままエンドラインを超えてタッチダウンを決める。
心愛のクリシナは一歩も動いていなかった。
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