父と一緒

 帝国に来て一ヶ月たった。

 その間にジェイドたちと一緒に近くを冒険したりしていたが、今日は父娘水入らずで散歩に行く予定。まあ、目の前の湖で遊ぶだけなんだけどさ。

 今日は約束通り、私は小さな姿になっている。カムイは私を縦抱っこして、護衛にカレルを連れている。

 ジェイドたち? 彼らは休養日なので、ここにはいない。


「とうしゃま。どこいくでしゅか?」

「王族のプライベートの湖岸だよ。砂浜があるんだ」

「お~」


 砂浜があるのか。そこなら遊べるというので、ちょっと期待する。

 普段よりも高い視界に、テンションが上がる。カムイは私よりも身長が高いからねー。見慣れない景色がとても新鮮だ。

 カムイの宮から裏に回り、建設中の温室を抜けて、そのまま湖まで一直線、桟橋があるところに着く。桟橋には小船が停泊していた。

 小船と言っても、ヨットくらいの大きさはあるかな? 人がいないから小船には乗らないという。

 桟橋から左に向き、湖の波打ち際をゆっくりと歩くカムイ。


「とうしゃま。いっちょにあるきたい」

「いいよ」


 砂浜に下ろしてもらい、手を繋いで歩く。

 一度もしたことがなかった、父との散歩。

 正確には義理の父と散歩をしたことはあるけど、『リーチェ』の時を含めても、本当の父と散歩というのは、記憶にないのだ。赤子の時はあったかもしれないが、私は覚えてないからね。

 なので、とても嬉しい!

 私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩くカムイ。途中で気になったものを拾っては、カムイにあれはなんだ、これはなんだと質問する。

 地球と同じもの、違うもの。似通っているけど若干違うもの。見ていて楽しい。

 湖の水はとても澄んでいて、冷たい。手で掬ってから浄化し、水を飲んでみる。すると、とても冷たくて美味しい水だと感じた。

 生活魔法があるから水に困ることはないが、畑にも飲み水としても使える水なんだろう。

 砂浜にはそれぞれ面白いものがあり、〝父と一緒〟ということがなんだか不思議で……。だけど、とてもキラキラと輝いて見える。

 父と一緒なら、どこに行っても楽しい気がするし、この世界を好きになれそうだなあと思える散歩だった。


 次の日は馬の乗り方を教わった。コツさえ覚えてしまえばそんなに難しいと感じることはなく、馬と話せるこが大きいのか、意思の疎通はバッチリだ。


「上手だよ、桜」

「ありがとう。旅に出るにしても、馬で移動できるようになったのは大きいかも」

「確かに。けれど、できれば僕の背中に乗って移動してもいいんだよ?」

「魅力的なお誘いだけど、それは二人っきりの時だけにしようよ。護衛がいると、そうも言ってらんないし」

「そうだね」


 パカパカと馬を歩かせながら、カムイと話す。そろそろ馬に慣れてきただろうからと、訓練場を走らせることに。

 ゆっくりだったものが少しずつスピードを上げ、馬を走らせる私たち。いつか遠乗りをしたいねと話し、その約束もした。

 まあ、馬から降りたあとは太ももとお尻が痛かったけどね!


 そして次の日も乗馬の練習をして、カムイにお隅付きをもらった翌日。カムイの護衛三人と私の護衛三人を連れて、森に散策に出る。

 さすがに二人きりでの遠乗りは、カレルさんが許してくれなかった。もちろん、カムイの護衛の中にもカレルさんがいる。

 馬に驚いたウサギが飛び出してきたり、鳥が鳴いていたり。


《巫女様だー》

《遊んでー》

「いいよ。その前に、パンを食べる?」


 開けた場所に出たので、そこで休憩。護衛たちにも飲み物を配り、交代で飲んでもらう。そこに雀たちがやってきて私の肩にとまると、カムイの護衛たちに唖然とされた。ジェイドたちは知っているみたいで、驚くようなことはなかったけどね!


「桜様は、動物とお話ができるのですか?」

「そうよ。ただ、魔獣とは話ができないから、動物限定なのかもね」

「左様でございますか」


 いち早く我に返ったカレルが質問してくる。もちろん、誰にも言うなとお願いをした。もちろん、カムイからもお願いしていた。

 そこはカムイの護衛に選ばれるくらいの騎士たちだ。しっかりと頷いていた。

 休憩が終わると、また馬にのって山を散策する。途中でハバーリに襲われて撃退したら唖然とされたり、薬草を見つけたので採取したり。

 一年中花が咲き、実をつけるという果物があって、逆に私が驚いたりと、とにかく思い出に残るものがまたひとつできたことが嬉しかった。

 ハバーリの肉は分け、騎士二人とジェイドたち三人に持って帰らせ、残りはカムイの宮で食べることに。皮がほしいとカレルにお願いされたので、それは全部渡した。

 後日、カムイの宮にいる女官と執事の防具になったと聞いて、唖然としたけどね!


 あとは一緒に帝国に関することを勉強したり、フェンリルになったカムイにのって山を走り回ったり、寝そべったり。

 とにかく、できるだけ二人で一緒に過ごした。


 その数日後には祖父母を連れて、離宮があるという港町に出発し、一週間そこで過ごした。そこで刺身があったよ! あと醤油とわさびも!

 嬉々として新鮮な魚を買いあさり、刺身の他に海鮮サラダや海鮮丼、焼き魚の煮魚も作って食べた。残りはマジックジュエリーにしまい、王宮にお持ち帰り。

 これでいつでも、新鮮な魚が食べられると、祖父母も喜んでいた。

 あとは浜焼きをしたり、釣をしたり、散策したり。四人でのんびりと過ごし、王宮に帰ってきた。



 とっても楽しい旅だった!


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出戻り巫女の日常 饕餮 @glifindole

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