31話 テストと罰ゲーム1

 2学期の中間テストを近くに控えているとある日、僕は七五三田と笙に呼ばれていた。

 指定された場所は海老名駅近くにあるハンバーガー店。僕が着いた時には2人は既に着いていてポテトとハンバーガーを食べていた。

 「ごめん。遅れた」

 「まだ、集合時間前だし大丈夫だ。蒼も、何か頼んで来いよ」

 「そうだな」

 ランチタイムを過ぎているせいか、お客さんが殆どいないレジで「てりやきバーガー」のセットを注文する。

 今回、呼ばれた理由は分かっている。それが当たっているかどうかは本人の口から聞こうと思って、七五三田たちがいる方を見ると笙と目があった。すると、笙はニコッと微笑むと手元にあったノートを見始めた。一方で、七五三田はシャーペン片手に数学の教科書を見ていた。

 (そういえば、今回の数学は難しいんだっけ?僕もやらないとなぁ……)

 テストのことを考えていると、注文した「てりやきバーガー」のセットが出来上がっていた。僕はセットが乗ってるトレイを持って勉強している七五三田の向かい側つまり、笙の横に座る。

 「お待ちどう。それで、話って何?」

 僕が笙に尋ねると、何故にか七五三田がビクッと痙攣した。そのあとに笙を見ると、口元が笑っていた。

 (何があったんだ?この2人。まるで、主従関係が逆になってるような感じがするんだけどまさか……)

 僕はそのことについて考えるのをやめた。

 「今日、東雲蒼を呼んだのは先日話したテストのことについてです。今回は9教科の総合点で対決してもらいます。負けたほうには罰ゲームがあります。私的には1日主従関係を逆にするのがよかったんですが、止められました。なので、負けたほうは今契約している妖怪を勝ったほうにあげることにします」

 今の話の中に明らかに聞き捨てならない言葉が紛れ込んでいた。さっきまで考えていたのと同じ言葉を。

 「ちょっと待って。そうすると、僕が負けた暁には僕の主は七五三田になるってことでしょ?それって無理やりそっちの趣味に開花させようとしているだけだよね!?」

 「何か不満でも?でも東雲蒼が勝ったら、百鬼夜行のメンバーから誰でも1人が手に入りますよ。負けた時はダメージが計り知れませんが、勝った時のメリットは大きいです。それとも、デメリットが大きいから逃げるんですか?男らしくないですね。いいですよ、逃げてもその代わり後で金的ですからね」

 笙はさっきより声のトーンを落として煽りと脅迫を同時にしてきた。そして、逃げ道は閉ざされた。

 (笙の蹴りで金的ってダメだろ!一発でお陀仏だよ!子孫が残せなくなるよ!仕方ないか、勝負を受けるか)

 「わかった、わかった。その勝負、受けてたとう」

 僕がそう宣言すると、笙は嬉しそうな顔をしながら「報酬の妖怪はだれがいいですか?」と聞いてきた。僕は少し考えてから「笙」を選んだ。すると、選ばれた笙は顔を一気に赤くして僕の肩を力強く掴んできた。

 「本当にいいのか?本当の本当にか?」

 「本当だよ」

 それだけ言うと、今度は激しく揺らされた。さっきから食べているハンバーガーが口から出てきそう。僕は揺れる視界のなか、反対側にいる七五三田を見ると絶望した表情をしていた。なんでそんな表情をしているのかさっぱりわからない僕は笙の腕を掴むと、やっと揺れが治まった。地震の震度に表すと震度5弱ぐらいだった。

 「しょ、笙、揺らしすぎ。なぁ、1つ聞いていいか?」

 笙は赤い顔のまま首を縦に振る。

 「七五三田はなんで、死んだような顔をしているんだ?まさか、お前が七五三田の魂を管理してるのか?」

 「何言ってるの?そんなわけないじゃん。マスターはただ単に家庭教師がいなくなることを宣言されて気分が沈んでるだけ。こう見えても、私は高校3年生までの問題なら難なく解くことができるほど頭がいいんです!自分で言うのも何なんですが……」

 それを聞いた瞬間、焦りが生じた。

 (初対面で痴女みたいな服装をした人が今、たった今目の前で僕たちより頭がいいアピールをし始めるとはこいつ、嘘をついているかもしれない。でも、七五三田の顔を見れば笙の言ってることは嘘じゃないとされる。だとする、僕の選択はかなり良かったということになる。やったぜ)

 「今回の勝負の報酬は笙で確定する。七五三田、お前の家庭教師は僕がもらっていく」

 「そのかわり、俺が買ったら蒼、お前をこき使ってやる」

 七五三田は目に見えないビームが出ているんじゃないかと思うぐらい僕を睨みつけてきている。僕はそれを知らんぷりし残っているハンバーガーとポテトを平らげ帰ることにした。


 家に着いた僕は急いで、自室に戻りテスト勉強をしようと椅子に座ると夕里から電話がかかってきた。

 「もしもし。どうしたんだ?」

 『ねぇ、蒼。今日ね、お母さんたちが帰ってこないの。だから、今から家に来ない?』

 僕は「わかった」とだけ言い、出かける準備を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日から僕は 稲荷 里狐 @rikoinari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ