30話 蒼と唯2
日當瀬先輩を担いでアウトレットを後にした僕は九尾に案内されるがままに先輩の家に行く。先輩の家はアウトレットからそう離れておらず、20分ぐらいで着いてしまった。
「でか……」
僕は先輩の家があるマンションを見上げてそうつぶやくと、九尾と百鬼夜行はそそくさとエントランスに行き、鍵付きの自動ドアを解錠し入っていく。僕は閉まる前に急いで入る。
エントランスを抜け、エレベーターに行くと既に部屋のある階のボタンを押した九尾たちが待ってた。僕は明かりのついたボタンを見て驚愕した。
(15階建てのマンションで15階が先輩の部屋って、どんだけすごいんだよ)
僕が驚いているのに気が付いたのか九尾は得意げに「最上階は1Fすべてがご主人様の部屋です。家賃等はご主人様の報酬から支払われているから、なんか申し訳なく思うよ」と言った。
僕個人からすれば、眷属は主の僕であるわけだから主がお金とか出すのは当たり前だと思う。まぁ、そんなことを思っていても、実際お金を払っているのは主である天邪鬼ではなく眷属の僕なんだけど……
そうこうしているうちに、エレベーターは15階に着いた。扉が開くと目の前には玄関の扉があった。
九尾に玄関の鍵を開けてもらい、僕はすぐさまリビングに行き先輩をソファーに寝かせる。
「先輩はここでいいのか?」
「今のところはそこでいい。後ほど、私が寝室まで連れて行くから」
「わかった。なぁ、何か僕にできることはないか?」
僕が聞くと九尾は少し考えてから「そうだな~夜行ちゃんとご主人様用にご飯を作ってほしい」とそれだけ告げると、先輩をお姫様抱っこし寝室だと思われる場所に行ってしまった。
部屋に残った百鬼夜行に先輩の嫌いな食べ物やアレルギーを聞く。すると、嫌いな食べ物は無くアレルギーも無いとわかった。
僕はキッチンで手を洗ってから炊飯器に残っていたご飯を一合だけ取り出し鍋に移す。そこに米が浸るぐらいの水を入れ、火を中火でつける。その間に、百鬼夜行に出してもらった小ねぎを切っておく。そして、最後に使う卵も溶いておく。
小ねぎとは、青ネギを若取りとまり早めに収穫した物のことを言う。
(ねぎって、たくさんの種類があるからわかりにくいんだよなぁ。全部青ネギでいいのに……)
僕が頭の中で愚痴っていると、お鍋の中の米にとろみがついてきたため塩を適量加え、強火にする。それで、沸騰したら溶いておいた卵を回し入れる。あらかた卵に火が通ったらお椀に盛り、先ほど切っておいた小ねぎをのせれば卵粥の完成。
僕がおかゆを作り上げたと同時にキッチンに百鬼夜行が入ってきたかと思えば、先輩の寝室の場所を教えてくれた。自分で運んでいけと言うことらしい。
そういうことで、お盆におかゆと水とスプーンを乗せ寝室に向かう。
先輩の寝室は普通の家とは違っていた。
通常の寝室ならシングルベッドが置いてあるはずなんだが、この寝室には何故にかキングサイズのベッドが置いてあった。
僕は深く考えないことにし、ベッドに横になっている先輩の横で看病している九尾にお盆を渡し部屋を出ていこうとすると九尾に呼び止められた。
「どうした?」
「東雲蒼、あなたはなんで殺そうとしたご主人様を助けるの?」
「う~ん。特に理由もないかな?」
「そんなはずない。あなたは少しでも、ご主人様のことを憎んだりしてないの?」
「憎んでないよ。だって先輩は妖怪を倒すのが仕事だろ。それなら、僕が殺されたりするのはしょうがないことだと思う。だから、僕は憎まない」
僕がそういうと、九尾はどこか安心した表情をした。
「そうか、ありがとうね。ほら、風邪がうつってはいけないからリビングに行ってて」
「わかった」
それだけ言って寝室を後にした。リビングに行くとソファーで百鬼夜行が寝ていた。しかも、テレビをつけっぱなしにして。
「布団も何も掛けないで寝て、風邪ひくだろ。……ん?妖怪って、風邪ひくのか?」
疑問に思った僕は帰宅するのを止め、食卓の椅子に座って寝室から九尾が出てくるのを待つことにした。
20分後……
九尾はお盆を持って寝室が出てきた。その姿はアウトレットにいた時と大きく変わっており、狐の耳と尻尾が生えていた。
「先輩は……」
「ご主人様なら寝ているよ。それと、伝言だ。『お粥、おいしかった』だって」
「それなら、よかった。1つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「妖怪って、風邪ひくの?」
「はい、ひきますよ。インフルエンザにもかかりますよ」
「マジか……」
「マジです」
(日本の病気、どんだけ強力なんだよ!人間にとどまらず妖怪にも感染するってどんなだよ!……僕も気を付けないと)
僕は九尾と洗い物をしてから自宅に帰ることにした。
自宅に帰ると、自分の机の上に置手紙があった。
そこには「実家に帰らせていただきます」の文字が。僕は漫画に影響されて遊んでいるだけだと思い、夕里に電話したら「天ちゃんなら、家にいるよ。替わる?」と思った通りの返答が来た。僕は「大丈夫。ありがとう」と言い、電話を切ってベッドに寝転がる。
「はぁ~今日は疲れた。にしても先輩の胸、柔らかかったな~いかんいかん、夜まではまだ時間あるし自重しないと」
僕はそのまま、意識を落とした。
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