29話 蒼と唯1
とある休日、僕は独りで海老名にできたアウトレットに来ていた。これと言った理由はないのだが、なんとなく来てみたかったから来た。
アウトレットに着くと、もうすでに沢山のお客さんでごった返していた。そのお客さんたちの服装は半袖から長袖に衣替えされていて、改めて冬が近づいてきたことを実感した。
エントランスから入ると、目の前にあるスーパーも混雑していて正月にあるバーゲンセールに群がる人たちを連想させた。僕は用の無いスーパーなどどうでもいいかのような感じで1階フロアの奥まで歩いた。
1階フロアの真ん中までは飲食店が多く、お昼近くに来た僕の食欲をそそるが今ここでお金を使ってしまえば上の階で見つけた物を買えなくなる可能性を感じ我慢しながら歩くと、段々と食品系からインテリアグッズなどの生活雑貨を扱でお店が増え始めた。
服や靴、他にも文房具だったり日用雑貨などを扱っている幾つものお店の中でもやはり僕はここに来てしまう。そのお店の名は「ロ〇ト」。このお店は1980年代に渋谷で出来た名も歴史もある有名店だ。
ロ〇トはキッチングッズや旅行用品など、このお店に行けば大抵の物が揃う。近頃は有名なキャラクターとコラボして文房具を出したりしている。
そんなロ〇トで僕は思いがけない人物を見つけてしまった。その人物は僕の視線に気づいたのかこちらを見ると、手にしていた商品を元に戻して駆け寄ってきた。
「珍しいね。こんなところで会うなんて」
「そうだな。てか、なんでこんなところにいるんだ?ご主人さまはどうした?」
「主様は多分、そこら辺にいると思うけど……あ!いた。おーい」
呼びかけると、奥にいたこいつの主様が来た。
そいつは僕の顔を見るなりばつの悪そうな顔をした。理由は分かっているし、僕はあのことについてはもう怒っていない。僕が挨拶しようとした瞬間、そいつは頭を下げて謝ってきた。
「もう怒ってないから、謝らないでください。あれは、ちゃんと答えなかった僕も悪かったですし、お互い様ってことで終わりましたよね?だから、もう謝らないでください。日當瀬先輩」
僕がそういうと、日當瀬先輩は顔を上げると手を握ってきたかと思えば連れ去る勢いで僕の腕を引っ張りどこかへ連れて行った。
「どこに連れて行く気ですか?先輩、日當瀬先輩」
日當瀬先輩は返事もせずに黙々と僕の手を引く。あの人物はちゃんとついてきているのか確認で後ろを見ると、あの人物ともう一人いた。
「先輩。なんで、百鬼夜行もいるんですか?」
「え?私は呼んでないけど……」
やっと反応してくれた先輩は僕と同じように後ろを見ると、不思議そうな顔をした。それでも止まる気配は無かった。
僕は先輩に引きつられること10分。連れてこられたのは4階にある有隣堂だった。
「先輩。何か、探し物ですか?それも後輩の男子を連れて」
僕が先輩に聞いてみると、ちょっとねとはぐらかされてしまった。
(本屋に男を連れてくる理由がいまいちわからない。連れてくるなら、眷属の九尾と何故にかついてきている百鬼夜行にすればいいのに……)
僕はしぶしぶ本屋に入っていった。
先輩は書店の人が勧めている本なんか見る気もなく、一目散にとあるコーナーに行ってしまった。置いてかれた僕は少し遅れてきた九尾と百鬼夜行と合流してから行くことにした。
遅れてきた九尾と百鬼夜行はいつもと違った風貌だった。
九尾はトレードマークと言ってもいい耳と9つある尻尾は綺麗さっぱりなくなっておりそして、髪は金髪から黒髪になっておりしおらしさを感じた。
そして、百鬼夜行も九尾と同じ黒髪で服装は九尾と同じ黒色のフレアスカートに白のパーカーに茶色のミリタリージャケットを着ていて、それは正しく双子コーデでそれだけで仲がいいことがうかがえた。
「どうしたの?蒼君」
「私たちの顔に何かついてる?東雲蒼」
「いえ……ただ、見とれてしまっていただけです」
僕が何も考えずに言ってしまうと、九尾と百鬼夜行は顔を赤くしてお互いを見てしまった。
「……」
少し考えてから僕はやっと気づいた自分が2人に言ったこと。それを思い出すと、僕の顔まで赤くなった気がした。
僕たちが店の前でそうしていると、日當瀬先輩が棚間から出てきた。
「2人ともどうしたの?顔を赤いよ。その前になんで百鬼夜行がいるの?私、呼んでないけど……」
「前々から九ちゃんと約束してて、偶々日にちが一緒だったから一緒に……ね?」
(なぜ、疑問形……)
僕がそんなことを思っていると先輩の顔が疑わし気になり百鬼夜行と九尾の顔を見比べている。
何か感じたのか、百鬼夜行は顔を赤くしたまま今度は汗をかき始め目はあらぬ方を見ていた。
(さっきのって嘘か……まぁ、姉妹のように仲がいい友達がどっかに行くってなると気になるのは分かるが、さすがについてこないだろ。しかも服装まで揃えて来るってなんか怖いな。恐怖を感じる……)
僕は3人を置いて先ほどまで先輩がいた棚まで行くとそこはライトノベルが置いてある棚だった。
棚には異世界転生や日常モノ・魔法や能力系など多くの種類がありそれらが棚一面にあり少し驚いた。僕自身、あまり読書をするタイプではないが何冊か心を惹かれる本があった。
僕がその本を手にした時、九尾と百鬼夜行を連れた日當瀬先輩が来たかと思ったら僕が手にしていた本を見ると、嬉しそうに寄ってきた。
「東雲君、その本知ってるの?」
「いえ……今初めて知ったんです。それが……どうかしました?」
僕が聞くと、先輩は「何でもないよ」と言うとライトノベルの棚を見始めた。疑問に感じた僕は作者の名前を見るとそこには「常陸 唯」と書いてあった。僕はなぜ、先輩があんな態度をとったのか疑問に思い横を見ると、先輩の代わりに九尾と百鬼夜行がいた。
「日當瀬先輩はどこに行ったの?」
「ご主人様なら、トイレに行った。その内に戻ってくるよ」
「そ、そうか」
先輩の帰還を待つ間、3人でライトノベルを漁った。
10分後……
先輩は何故にか顔を赤くして帰ってきた。羞恥心からくる赤面ではないような気がした。
「先輩、どうしました?顔が赤いですよ」
「え?ホント?」
「本当ですよ」
どうやら自覚がないらしい。どうしたものか。僕が少し悩んでいると九尾が「ご主人様、風邪でもひいているんじゃない?」と言うと、先輩は「え?……本当?私、風邪ひいてるなら帰ら……ないと……」と言うと脱力し始めた。完全に倒れる前になんとか九尾が先輩を支えることができた。僕は先輩をおんぶし、アウトレットを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます