28話 狗神と九尾5

 『第二の死』で百鬼夜行と話していた僕は突如発生した光に目を殺されていた。

 「な、なんでこんなところに光が入るんだ?」

 僕が独り言のように言うと、隣にいた百鬼夜行が嬉しそうに「助けが来た」と言った。何かの間違えだろうと思っていると、光がする方から声がした。


 私は百鬼夜行が封じられているとされている札を遠慮なく千切ると、近くにいた百鬼夜行の主である七五三田印は顔を青く染めながら近寄ってきた。

 「な、何をしたんだ……な、中にはあいつが……百鬼夜行がいるんだぞ!それなのに……そんなことをするなんて……」

 「そんなこと知るか!このひよっ子が!」

 突如激高した私に驚いたのか、七五三田印は尻もちをついたが私は構わず話し続ける。

 「このような札は正式な方法で解呪するより、力がある妖怪なら力づくで解呪できる。そして、私はその前提をクリアしているからできるわけ。わかった?」

 私は七五三田印の返事を待つより先に札を天邪鬼の前に置き、主を介抱しに壁まで行く。

 「大丈夫?唯」

 「い、今のところわね……少し舐めてた。あの鬼。九尾、ちゃんと札を破った?」

 「破ったよ」

 「そう……よかったね。ちゃんと友達を救えて……」

 私の主の日當瀬唯は私の肩の手を置きながらゆっくり立ち上がった瞬間、札から百鬼夜行と何故にか天邪鬼の眷属の東雲蒼が出てきた。

 「ふぅ~やっと戻れたよ~ありがとうね!九ちゃん!」

 百鬼夜行は私を昔の呼び名で呼びながら感謝の言葉を言ってきた。この公共の場でこの恥ずかしいあだ名を呼ばれたことに怒りを通り越して恥ずかしさが来た。

 「や、やめてよ。百鬼夜行。恥ずかしいよ」

 「その家族とお祭りに行ってクラスメイトと会った時の感じを出すのは何!?なんか、悲しいよ!」

 「恥ずかしいだろ。百鬼夜行が嫌なら夜行にしてやる。それでいいだろ?」

 「え~やだ~昔みたいに『夜行ちゃん』って言ってよ~」

 私は主をもう1回壁に置き百鬼夜行の前に行く。

 「そもそも!あんたが私に男口調を命じたんでしょ!」

 「そう……だけど……」

 「男口調で女の子にちゃん付けってが股ゆるやつじゃん!私はそんなキャラは嫌なの。夜行、あんたが昔みたいに呼んで欲しければ今から男口調をやめる。これはあんたが決めて」

 私はそう突き放すように告げると、夜行は少し考えこむと寂しいことを理由にし私に男口調をやめるように言った。

 長い時間本来の口調をしていなかっただけあったのか、うまく話せる感じしなかった。

 私はわざとらしく咳をしてから改めて百鬼夜行こと「夜行ちゃん」に話しかける。

 「夜行ちゃん。これで……いい?」

 「うん!それでいいよ!可愛いしね!蒼君」

 「え?」

 私が夜行ちゃんが最後に言った名前に耳を疑うと、東雲蒼が少し赤い顔をして「か、可愛いと思う……」と言ってきた。そう言われた瞬間、私の顔は一気に赤くなった。なんて言ったって異性から「可愛い」なんて言われたことなんてなかったから。

 「ほ、本当に?」気づけば東雲蒼に聞き返していた。

 「本当だよ。僕が生きてきた中で見た女性の中でもかなり上のほうだと思うほど可愛い」と東雲蒼はさらに感想を述べてきた。

 (かなり可愛いだって!?そ、そんな~)

 私はそんなことを思いながらクールダウンするために青の扇を取り出し、扇ぐと心地よい風が吹いてきた。

 「あ、ありがとう。じゃあね」

 私はそれだけ言って主を抱え階段を上っていく。


 九尾が行った後、階段には僕・天邪鬼・笙・百鬼夜行・七五三田が残った。

 「そういえば、なんで他の生徒には今の戦闘がバレなかったんだ?」

 「それはね。九ちゃんが人払いの結界を張っていたからだよ。九ちゃんは呪術なら右に出るものなんていないし、相手の狗神を逃がすわけにいかなかったからね」と百鬼夜行が自慢げに話してくれた。

 だが、百鬼夜行の九尾に対しての「九ちゃん」呼びは、まだ慣れていないのか笙と七五三田が時たま「?マーク」を出していた。

 「天邪鬼もありがとう。全部見ていたよ」

 「え?そう?もっと褒めてもいいんだよ?」

 「はいはい」

 僕は天邪鬼の頭を撫でると、嬉しそうな顔をしたかと思ったら抱き着いてきた。

 「え?ちょ、ちょっと待って!ここ学校――」

 僕が慌てていると、天邪鬼人差し指を立て口元にかざすと「大丈夫だよ。僕はほかの人に見えないんだから」と可愛く言ってきた。

 だが、僕が言いたいのはそうじゃない。この学校には僕の彼女である夕里がいる。そして、妖怪が見える特異体質であることから今の状況をみられるのはまずいわけで、僕はそのことを話そうとした時、階段の上から誰かの視線を感じた。

 僕はその視線を追ってみると、先ほどまで思っていた相手――彼女の夕里がこちらを見ていた。

 「ゆ、夕里。こ、これは深いわけが――」

 僕が弁解という言い訳に近いことを言っていると抱き着いていた天邪鬼が「夕里ちゃ~ん」と言いながら夕里のところまで行ってしまった。

 夕里は天邪鬼を撫でると「天ちゃん。蒼に抱き着けって命令されたの?」と肯定されると、ロリコン決定される非常に危ない質問を天邪鬼にする。

 僕は心の中で「自分から抱き着いたと言え!」と何回も祈っていると、それが通じたのかしっかり天邪鬼は「うん。従僕が『僕に抱き着け!』って言ってきたから」と僕と反対のことを言った。

 夕里はそれを聞くと天邪鬼から僕に視線を向けると「放課後、私の家で話があるから来て」と言って教室に行ってしまった。その時の顔を僕は一生忘れることはなかった。

 

 狗神の戦闘が終わった僕と七五三田は遅刻扱いで教室に行った。もちろん、各々の妖怪を連れて。

 僕が席に着席すると、何故にか横に天邪鬼が来た。どうしたんだろうと思っていると、僕の膝に乗り机に向かいだした。

 僕は小声でどうしたのか聞くと、天邪鬼は授業というのがどんな物なのか知りたいからと返してきた。妖怪でも、人間の生活に興味が湧くと新しい情報を手に入れた僕は後ろを見ると百鬼夜行の姿はなくあの服を着た笙しかいなかった。

 (きっと、九尾のところにでもいってるのかな?)

 僕がそんなことを思っていると、4時限目の担当教師が入ってきた。

 

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