27話 狗神と九尾4

 『第二の死』で百鬼夜行と九尾の昔話を聞いていた僕と打って変わって現世では未だに九尾と狗神が戦っていた。

 そして、その後ろで九尾の主である少女と東雲蒼の主である天邪鬼が各々の武器を手にし、対峙していた。


 「従僕……うそでしょ?うそだよね?……」

 「嘘じゃないよ~しっかり私の鎌が切り落としたよ~」

 僕の従僕を目の前で殺した張本人の少女は暇そうに鎌を振り回しながら、使役している九尾を見ていた。

 僕は目の前で自分の眷属を殺されたことにショックを受けているのか、将又たった一人の眷属さえ守れなかったことからきているのか、それともその両方なのか今の僕の頭ではわからないけど損失感と虚無感だけが僕の中にあるのはわかった。そして、今すべきことも……

 僕は横に置いていた大剣の柄を握りよそ見している少女に向かって振る。

 「はぁぁぁぁぁ!」

 大剣を少女の腹目掛けて振るが剣は振り切れずに途中で止まった。止まった先を見ると、先ほどまで振り回していたはずの鎌が今ではしっかりと地面に鈎柄を着け、攻撃をガードしていた。

 「甘いよ。殺気は駄々洩れだし、素人でも気づくよ。何?そんなに眷属を殺されたのが頭にきた?アハハ!……殺されたぐらいで喚くな。ガキが」

 途中までテンションが高いまま話していた少女は急にテンションを下げ、口調も変わった。それに、僕が驚いていると急に腹部に激痛が走ったかと思ったら、壁に激突していた。

 頭からは血が流れ、右目を濡らす。残された左目で近くに落ちた大剣を握ろうとすると、握るより早く少女の足が僕の左手を踏んだ。

 「痛い……や、やめて……」

 「痛い?いいね~!そういうのが聞きたかったよ!妖怪の苦痛に満ちた声!そして苦悶に満ちた表情!ゾクゾクするよ!あぁ、嬲りがいのある妖怪っていいね~!」

 少女はそういうと、手を踏む力を上げ嬉しそうに笑う。

 踏まれている僕の左手からは血が流れ、骨が折れぐしゃぐしゃになっていた。この程度の怪我は自分の力で回復できるが内蔵系をやられると、回復できるものもできなくなってしまう。僕はできるだけ早く、この少女を手からどかさないと従僕と一緒にあの世送りにされてしまう。

 僕は痛みで体に力が入らず必死に足を殴っていると、「痛っ」と言う声が聞こえたかと思ったら僕の手から足が離れた。僕はすぐに左手を回復し立ち上がると、目の前に少女を蹴り飛ばした笙がいた。蹴り飛ばした足は恐怖で震えていた。

 笙は震える足を何とか踏ん張って立っている。その姿はまるで、生まれたての羊みたいにか弱く見えたが、背中は大きく見えた。

 僕は笙の後ろに立ちいきなり抱きつく。

 「え?あ、天邪鬼。な、何をしているの?」

 「動かないで。絶対に」

 僕はそういうと、牙を笙の首に刺した。挿し口からはたくさんの血が流れ僕の口に流れ込んできた。その血は少し汗交じりだったけどおいしかった。

 首から牙を離すと、笙は血を吸われたせいか貧血を起こしその場に倒れた。僕は壁側に笙を置いてすぐに大剣を握った。笙の血を吸ったおかげか、足に先ほどまでなかった力強さが表れた。

 僕は目の前の壁に寄りかかっている少女に向かって一歩跳んだ。少し広さのある踊り場の端から端をその一歩で跳んだ。跳んだ際に足場にした地面がひび割れてしまったが後で直しておけばいい。

 少女の頭上の壁に止まっている僕はそのまま切りかかるが、これも鎌によって防がれてしまった。

 「う~ん。やっぱり防御するか~なら!」

 僕は再び跳ぶと今度は大剣でいくのではく素手で行くことにした。僕の作戦としてはこうだ。まず、左手で鎌をつかみ使えなくする。そして、右足でひたすら蹴り続け再起不能にする。簡単そうに見えるが案外難しいものだ。

 少し離れた場所で足に力を入れて跳び、フェイントで大剣を構えると案の定少女は鎌を前に突き出し防御の体勢をとった。僕はそのまま大剣を振り下ろすかと思いきや、途中で止め計画通り左手で鎌を掴んだ。

 「なっ!汚いな~でも、武器が使えないのはお互い様だよ?」

 「それはそうかな?」

 僕は鈎柄を鉄棒の要領で掴み体を持ち上げ踵を少女の頭目掛けて下した。


 鎌を両手で持ってたため、腕でガード出来ない少女はタイミングよく頭を傾けると、踵下しを躱し次の行動に移ろうとした瞬間、左側頭部に鈍くて重い痛みが走ったかと思ったら体が階段の縁に当たり浮かび上がった。

 少女は自分の身に何が起こったのかわからなかった。気が付いたら、肩の骨は粉砕され体が宙を舞っていた。宙を舞っていると天邪鬼が満足そうな顔をしてこちらを見ていた。

 (何が起こったんだ?確かに踵下しを躱した。そしたら、痛みと共に舞っていた。あいつは何をしたんだ?)

 少女はそう思っていると、粉砕骨折した肩から地面に落ちた。落ちた瞬間、先ほどと同じ痛みが走り絶叫した。

 「おやおや、痛そうだね?大丈夫?」

 少女は「お前がやったんだろ!」と言ってやりたかったが、声が出なかった。どうやら肺と声帯をやられたようだ。痛みで泣き出しそうになりながらも天邪鬼を見ると、やはり満足そうな顔をしていた。

 「ねぇ、君。今から言うことが守れるなら粉砕骨折した肩と肺・声帯を治してあげるよ。どう?」

 少女ははすぐに首を縦に振った。


 自分の主と天邪鬼が何か後ろでしている前で、私は黄色と赤色の扇を持ち狗神と対峙している。狗神は刀を構えているが、体のあちこちを私の攻撃によって傷ついているのか余裕がなさそうだった。

 「もう、止めをさすか……疲れたし」

 私は4つの青い扇を狗神の手と足に向けて勢い良く投げつけると、扇から腕を覆ってしまうほどの氷が表れ足と腕を固めていった。

 狗神は何とか壊そうと抵抗するが氷は壊れる感じはしない。それもそうだ、この氷は妖怪の動きを封じるのに適している。それも、レベルの高い妖怪であればあるほど氷は硬度と封度が高くなる。狗神となってはそこら辺の妖怪よりレベルは段違いで高いため、氷は破壊できないほどの硬度をほこった。

 私は狗神に近づき右手で持っていた刀を落とすために小指を折ると、狗神は絶叫に近い悲鳴を上げると刀を落とした。

 私は刀を拾い上げそのまま、狗神の右肩に刺した。刺された狗神は悲鳴を上げることが出来なかった。狗神の口には腕と足にあるのと同じ氷が引っ付いていた。さっきの絶叫のあと、私は氷を引っ付け声を出させないようにしていた。

 「五月蠅い口も閉じた。やっぱり、お前は私より強くなかった。そのため、跡形もなく消してやる」

 私は再び青い扇を取り出し、まだ氷に包まれていない部分に投げ込む。すると、あっという間に狗神の体はすべて氷に包まれ、私の目の前には狗神ではなく氷の塊が鎮座していた。

 「みじめだな。あれほど勝てると言っていたのに、今ではただの氷になり果てて死ぬのを待つしかないとは、滑稽だな。まぁ、この言葉も届いてはいないだろうが……」

 私は氷の塊に赤、黄とは違う白色の扇をくっつけると氷の中が赤くなり始めた。

 この扇は炎・氷・雷とは違い、白の扇は無属性のレーザー攻撃を出す。このレーザーは土や氷といった無機質の物質にはダメージを与えず人間や動物などの有機物にダメージを与えるといった殺しに特化したものだ。

 今撃ったレーザーは狗神の足を貫いた。いつもなら撃たれたところは引きちぎれて吹き飛ぶのだが、今の狗神は氷漬けにされているため、足はいまだにくっつき穴だけが開いているだけ。となると、完全に分離するまであと4発ほど打てることになる。そう思った瞬間、私は笑いが止まらなかった。

 強者相手にこれだけ嬲ることが出来るとは愉快で爽快で快感なことだった。

 私は何度もビームーを撃ち込む。あっという間に透明だった氷は赤くなり、狗神の姿は確認できないほどになっていた。が、私にはわかった。氷の中の狗神は虫の息だが未だに生きており、手足は体と分離していることに。

 「ふぅー。楽しかった!久しぶりに楽しい殺し合いだった!氷を割って散らすか……」

 私は「砕けろ!」と言った瞬間、赤く染まった氷は粉砕し一緒に狗神も粉々となった。狗神が死んだときは血の一滴も出なかった。

 「ん?」

 狗神がいた場所には一枚の札が落ちていた。私はすぐに何かわからなかったが、何となくわかった。

 「あぁ、あれか……」

 私はためらうことなく札をちぎる。これを見ていた、百鬼夜行の主の七五三田印は顔を青く染めていた。こいつは知らないのだろう、札に封じ込められた妖怪の素早い解呪方法を……

 

 

 

 

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