第6話 危機的状況




「標準モデルにCDM理論をプラスした新しい理論は非常に良い理論だったので、これが新しい標準理論になりました」


「宇宙の謎を解いたのだな?」


「残念ながら現実はそう簡単ではなかったのです。このCDM理論に従えばいろいろなことがいえます。たとえば、銀河が集まって銀河団になり銀河団がさらに集まって超銀河団になり・・・・・といった構造の階層が存在するはずなんです。これは理論的に予想されることなんです。しかし、ハクラやフェーバーが発見した巨大な泡構造やグレートアトラクターは、CDM理論には少し大きすぎるのです。これが直ちにCDM理論の誤りを意味しているわけではありませんが、このようなものがさらに多く発見されたり、より大きなモノが見つかれば厄介なことになるのです」


「つまり、規模の階層が順を追ってないということか?」


「その通りです」


「それ以来CDM理論に不利なモノが多く発見されちゃったんですよ。たとえば、グレートアトラクター(巨大な牽引者)はさらに大きなシャプレーコンセントレーションに向かって落ちつつあることが見つかりました。泡構造も広い範囲に存在していること、つまり偶然発見された珍しい構造ではないことも確認されました。さらに彼らの作成した地図の中心の空には巨大な何か(グレートウォール:大壁)が存在することが分かりました。グレートウォールは五億光年の長さと二億光年の幅一五〇〇万光年の厚みを持った銀河の集団であります。さらにイギリスのグループとアメリカのグループが狭い範囲で、しかしさらに遠い領域を調べました。このペンシル・ビーム・サーベイ(「鉛筆の形」をした領域の観測)で、グレートウォールのような銀河の集団が約三億六千万光年おきに並んでいてその間には比較的物質が少ないということが分かりました」


「うーむ。CDM理論危うし、かぁ〜」


「さらにさらに、クエーサー(準星)と呼ばれる非常に遠方にありなお観測できる明るい天体があります。そのうちの10個のクエーサーはなお遠く、地球に届いている光は宇宙の年齢がまだ現在の15パーセントほどであった頃クエーサーを出たはずなんです。クエーサーの正体は若い銀河の明るい中心と考えられています。そんな遠いクエーサーが存在するということは、CDM理論で考えられるよりずっと早く銀河が形成され出したということを意味してしまうのです」


「ということは、、、CDM理論は、、、?」


「CDM理論はたった5年で問題にぶつかりました。1991年イギリスの科学誌ネイチャーは『CDM理論は終わりだ』と宣言し、アメリカ天文学会は慌てて記者会見を開きCDM理論の問題点を説明しました」


「・・・」


「素粒子物理学者のジョエル・プリマックは認めました」


『事実を素直に認めよう。もしCDM理論が間違いだとわかれば、認めるつもりだ。しかし、こんなに美しい理論がかつて間違いであったことなど決してないということも考えるべきだ』


「ザックリいうと、別の良いアイデアはありません。宇宙物理学は危機的状況に陥ったのです。宇宙物理学者ジェレミアー・オストライカーは当時こう語りました」


『知られている全ての理論が宇宙の構造を説明できないのだ。何かが、まだ発見されていない決定的な事実が、あるはずだ。それは時とともにはっきりしてくる』


「一つの理論がくつがえされるかも知れないという状況は刺激的でもあります。CDM理論をはじめに考え出しその後捨ててしまったピープルスのように、他のアイデアを喜んで検討し始める者達、また、ちょっとした修正でCDM理論は生き残ると考える者達。新しい理論を求めるにせよ、修正するにせよ、学者達はかつてないほど熱心に研究を進めています」


「振り出しに戻ったか。うーむ」


「人間は宇宙についてほとんど何も知らないということをよく知っています。我々は宇宙が何でできているかを知らない。どれほど大きいか、どれほどの年齢かもわかっていない。古代の哲学者が発した問いを、我々も、より進歩した形式ではあるが、いまだに繰り返しているのです」


「・・・・・」


「あはは。悲観することはありません。学者という生き物は謎が深まれば深まるほどに目を輝かす生き物ですから笑」


「うーん、しかし、、、」


「しかし、一つだけハッキリしている事があります」


「なんじゃ?それは?」


「一つだけハッキリしていること、それは、我が家の洗濯機が昨日壊れたと言う事実です」


「な、なんと!」


「新しい洗濯機を購入するお金が必要だと言う事です」


「そ、それは!」


「そして、現在、私は無職だという事実です」


「そ、そんな!」


「私はカクヨムのコンテストに応募中であります」


「な、なんという!」


「賞金をゲットしなければ、服の汚れは落ちないという、これが究極の真理であります」


「な、なんという、、、アホくささ!てか、働け!」


真理。それは時には残酷なものである。


「働け!」





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真理〜鼻をほじって考える〜 プロペラ43 @kt79

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