第一章2 『出会いは唐突に』
時は既に陽が傾き綿雲が綺麗な茜色に染まっている。その頃、キリユウを乗せたキャラバンは崖の下に出来ていた大きな洞窟に駐留し、身を休ませる準備を淡々と整えていた。
キリユウはキャラバンの者達と薪を掻き集め、火を起こし暖をとり、水辺や木々の根本に生える食用の山菜を採り、食事の支度をしていた。
「悪いな兄ちゃん、こんな事までさせちまって……」
「大丈夫ですよ。それに、怪我をしている人を放っておく訳にはいかないからな」
夏の木々の生い茂る濃い葉の様な力強い翠緑の髪を持ち、痛々しい傷を体中に付けた大柄の男──カプリコーン呼称、カプは、申し訳無さそうな肩をすくめる。
手当てをしていて一つ、気づいたことがあった。このキャラバンはお年寄りや手足不自由な人、小さな子供や女性が多くい。普通なら男性の方が多くなければ成り立たないキャラバンだが、何か訳でもあるのか。
「ご飯にしますよー!」
「おっ、うちの妻のミーリアだ。料理は凄っげぇ美味いが怒らすと怖ぇからな! 気をつけろよ?」
「あんたがキリユウね! ルナ達の手当てありがとね。私はミーリア。さぁ食べな、栄養満点のミーリア特製の山菜シチューだ!」
元気があり、初夏の木々の若葉の様に艶のある新緑の髪を持つ女性──ミーリアは、キリユウに特製の山菜シチューを勧める。
「あ、ありがとうございます」
ミーリアから、特製のシチューの入った器を受け取り、一口、口にする。
「うまっ」
「そうだろぉ!」
誇らしげに胸を張って自慢してくるミーリア。味は格別に美味しいシチューだ。
隣でシチューを食べているカプにミーリアが話しかける。
「大丈夫かね? ユウラ。ナギちゃん誘拐されて、無事だといいんけど……」
「ああ、そうだな俺たちがなんとかしねぇとな」
ユウラとはあの誘拐されてしまった子──ナギサの母親だろう。あの空に浮かぶ黒熊の幼女の事も気になるキリユウ。
「よし! テントにいる人たちの分持っていくから手伝っておくれ、キリユウ」
「はい!」
ミーリアから特性シチューを受け取り、ルナのいるテントへと足を運ぶ。テントからはすすり泣く女性の声が聞こえてくる。
「うぅっナギサぁ」
中には誘拐された少女の母──ユウラが泣き崩れており、その近くには戦乱の傷を手当てされ、俯くルナもいた。
「──ユウラ、大丈夫かい?」
「ミーリアぁっ」
ユウラはミーリアさんに抱きつき、先程よりも声を上げ泣きじゃくる。
カプと共に怪我をした人たちへシチューを配り怪我の具合を診る。ナギサを取り戻そうと男達が武器を取ったが、狩猟用の弓や刀では歯が立たず、多くのものが火傷や切り傷を負っている。
ふと、ポケットに入れていたルナの御守りのことを思い出し、彼に渡しに行く。
「なぁ、これお前のだろ?」
「あ、あぁ。サンキューな」
ルナに落し物も渡し、一通り手当てをした後、キリユウは空になった食器を抱え、テントを後にした。
近くの川で食器などを洗い終える頃には既に陽が沈み、星々が輝いていた。カプに休むようにと荷馬車へと押し込められたが、眠れるはずがなく、荷馬車から星々を眺め時を過ごしていた。
──訓練、行かなきゃあいつ怒るだろうな
ふと、シルアが去り際に言い放った言葉を思い出す。明日の訓練には行けるはずもなく、帰ったらシルアからの平手打ちが待っているだろうと思うと何だか肌寒く感じた。
そんな時だった、小さな蒼白い光の粒が一つテントの前へと現れたのだ。
──何だろ、あれ
キリユウがしばし荷台からその朧げな蒼白い光を眺めていると、テントからその光に手を伸ばし追い求めながら一歩一歩前へと踏み出す人影が現れた。
──ユウラさん!?
ユウラはその光に導かれながら、森林の中へと向かっていく。夜の森は獣も出る為、火のそばから離れてしまうと危険だと考えたキリユウは、何かあった時に対処出来るように誰かを起こしておこうと荷台に視線をやる。
荷台にいるのは怪我を負ったルナと大柄な体を持ち、いびきをかきながら熟睡するカプだけだった。怪我人を起こす訳にも行かず、カプを起こす事にしたキリユウだが、
「──みっ、ミーリア! 俺が悪かったっ。だからぁ」
そう呟くとカプは再び、眠りへとついてしまった。カプを起こす事が出来ず、ユウラを見失ってしまうとキリユウは焦り、キリユウは訳も分からず蒼白い光について行くユウラの跡を一人で追う事にした。こんな夜更けに一人で外出するのは危ないと告げる為、跡を追う。
青白い光は森の奥へと進んで行った。奥へと進んで行くと、だんだん蒼白い光が増えて行く様に感じた。森を抜けた先には一本の蒼白い光を纏った大樹と一面、光り輝く大きな泉が広がる場所へと辿り着いた。ユウラを連れて行った光がその大樹へと帰って行くのを見ていたキリユウだが、ふと前を向くとそこに居るはずのユウラが見当たらないのだ。
「え! ユウラさんっ」
見失ったユウラをキリユウは必死に探す為、大樹へと近づくと蒼白い光が一斉に激しく光り輝き始めた。刹那、その光はキリユウの目を眩ませる。
後ずさるキリユウは足を踏み外し、大きな音を立て水の中へと落ちたのだ。
泉の水は月明かりを反射しする。キリユウは無数の光る粒子の流れに呑み込まれていく。直ぐそこに、手を伸ばせば届く水面。しかし、キリユウは水面へと向かおうとはしなかった。只々、泉へと沈んでいく。
KIRIYU-紅蓮のフォルティア- 暁月夜 @KIRIYU_FIA_RUNA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。KIRIYU-紅蓮のフォルティア-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます