#16 成長した蕾は花を咲かす
久しぶりの授業から五日。その間に《脅威》が襲ってくることはなく襲撃は明日か明後日の二日になった。
だが、それでよかったと思う。じゃなきゃ、誰も覚醒していなかったし準備も何も整っていない。
《脅威》と戦うための準備。兵士の育成。武器の調整。他にもある。備品の準備もそうだ。
その備品を準備するためにハイドは放課後に市街地へ足を運んだ。
ニウスの予知によると、《脅威》の襲撃と言うのは明日であることが確定したらしい。タイミング的には良くも悪くもない。これもまた予知通りだが、もともと覚醒していたレイネス、シオン、ラプト、チコ、ロギル、ニウス以外の生徒たちは全員覚醒した。
経験や知識が浅いため学校には残るが、『クリエイトウェポン』の魔力を習得する試練に合格すればいつでも卒業できるという状態だ。
魔力と特殊能力を扱えるようになり生徒たちは自分に自信をつけて成長していった。が、まだ《脅威》に勝つことは難しいだろう。
戦いが終わるギリギリまで勝ちか負けかは不確定だという。戦うことが確定的な未来でも勝ちで終わるか負けで終わるかはその時にならなければわからない。
戦いを勝ちで終わらせるためにもハイドは市街地にある魔道具店へと向かった。
初老で人型小獣族の店主に迎えられ、棚に置かれたポーションの類を眺める。
相手が何の魔力を持っているかもわからないが自身の身体能力や魔力の質を上げるもの、逆に相手の魔力効果を薄めるものがあっても良いだろうと思ったが値段を見てやめた。
ポーション一本あたりが日本円でおよそ十五万円。ハイドの給料ではこれからの生活に支障が生まれるレベルだ。もう少し安価かつ実用的な魔道具を求めてポーションの棚から目を離す。
バングルやブローチ、指輪型と言った魔道具が並ぶなかハイドの目に着いたのはネックレス型のもの。
使用者の魔力量に応じて状態異常に耐性がつく。それから、セットで購入すれば魔力を介して通信もできるという代物。
「これってここにあるもので全部か?」
店主に問いかけると無言の頷きが返ってきた。
全部で五個か。主要戦力になるだろうあいつらと自分に一個ずつ渡すことにするか。
あまり安いとは言えない金額を払い魔道具店を後にしたハイドはその足で武器工房へと向かった。
「お客さん。待っていましたよ」
重たい扉を開けると汗だらけで、長くて白いひげを生やし、何よりも大きい人型巨獣族の店主が出迎えた。
「待っていたってことは注文したもんはできているんだな?」
「えぇもちろんですとも」
目を細くして笑った店主は片刃の二本の剣をハイドの前に置いた。刀身が緩やかなカーブを描いた一組の双剣。
「それにしても、魔力の影響を受けにくい剣なんて。お客さん、近々どこかに行くつもりで?」
「まぁ、そんなところだ」
「おっと失敬。軍人のお客さんに聞いていいことでもなかったですなぁ」
と、店主が豪快に笑うのに対し、俺は軍人に見えているのかと苦笑を浮かべ、ここでも高くはないお金を払って黒い鞘に収められた二本の剣を手に店を出た。
(今度の戦いでは俺も覚悟を決めなくちゃいけなんねぇからな)
自分が生き残るためならどんなに高い金でも払ってやる。・・・ただし、ポーションは別だ。
とりあえずこれで買い出しは終了。他にも買うべきものはあるだろうが財布がもう空だ。あとは帰って一人で作戦会議でもすることにしよう。と、職員用の寮へと続く道を歩いていると後ろから肩をたたかれた。
振り返るとそこには顔がよく似た白髪の男女が立っていた。
「シントとフィメロか。珍しいな。こんなところで」
特殊組に所属する天使族の双子。兄のシントと妹のフィメロ。この二名は一昨日あたりに覚醒した生徒だ。
「先生、探しました」
「結果報告だよ!」
しっかり者のシントは敬語を使い、妹のフィメロは友達のように話しかけてくる。まぁ、気にすることじゃない。
「結果報告って、何のだ?」
「僕が《黄金色の脅威》の魔力について」
「私が奴の戦闘能力についてだよ!」
シントの特殊能力が見たものの魔力を知ることが出来ると言うもので、フィメロは魔力や身体能力と言った能力を数値化できると言うもの。どちらとも発動条件として直接見る必要があるのだが、
「もしかして見たのか?」
「方角さえわかれば後は先生が教えてくれた通り目に魔力を集中させるだけですからね」
それもそうだと苦笑し結果報告を待つ。
「報告します。奴の魔力は『イグティクション』と『インパクト』の二つの魔力を確認しました」
《緑色の脅威》からもしかしたらと言う気もしていたが、よりにもよってその二つか。厄介だな。
「でね、総戦闘力が二万。一般市民が五十でクラス一のレイネスちゃんでも五千。先生が四千八百」
なんだ、レイネスに負けていたのかなんて今はちっとも気にならない。あとで思う存分悔しがることにする。
「その内訳は?」
「えーっと、魔力が一万八千。身体能力千九百。知力百です」
「それは妙だな。魔力が高けりゃ知能ってのも自然と高くなるはずなんだが。いや、一般市民よりは知力も高そうだが、それでも妙だな」
「そうなんですか?ですが先生、僕たちは本当に勝てるのでしょうか」
どうやらシントはフィメロの出した数値に臆したようだ。確かに数字だけで見れば圧倒的だが、
「うちのクラスで一番戦闘能力が低いのはいくつで誰だ?」
「二千五百でニウスちゃんだったはず」
「じゃあ大丈夫だな。うちのクラスは俺を入れて現在十八名。単純計算で二万は余裕でこせる」
「そんな簡単でいいんですかね。って言うか先生含めてってことは先生も戦うんですね。剣を新調しているし、そうかなぁとは思いましたけど」
「まぁな。一人が敵わなくても協力すれば何とかなるなんて例はたくさんある。それに、俺だってお前らだけを戦わせるようなことはしないさ」
けけけと笑いハイドは言う。
「そうだフィメロ。頼んでいたものって出来ているか?」
「うん!それも今渡そうと・・・思っ・・・て」
だんだんと声が小さくなりポケットと言うポケットを漁るフィメロ。やがて、漁るのをやめて薄ら笑いを浮かべる。
「慌てておいて来ちゃったかも」
「相変わらず、あわてんぼうだなぁ」
本当なら頼んだものを使って作戦を立てようと思ったが、
「今日中に頼めるか?」
「それは大丈夫!探せばあるはずだし!」
と意気込むフィメロの横でシントが静かに手を挙げた。
「探しているのって、もしかしてこれですかね。さっきフィメロが落としたのを拾ったんですけど」
そっと懐から一枚の紙を取り出しフィメロが受け取る。フィメロはその中身を見てすぐに笑顔を浮かべハイドに渡した。
「これだよ!先生に頼まれていたもの!」
「お前の兄がしっかり者でよかったよ」
「ねー、本当にありがとう!シント!」
「僕は別に」
「でもさー」
楽しそうに談笑を始めた双子に別れを告げ寮へと急いだ。
フィメロに頼んでいたものとはクラス内の戦闘能力表。これを有効活用していい作戦を練ろうという算段だ。
戦わせるのは本当に申し訳ないと思っている。けど、誰かを死なせるようなことなんかしない。それが、教師であり、担当であり、次の戦いの指揮官を務める俺の義務だ。
そう密かに決意し得た情報をもとに作戦を練った。練りに練って失敗した時のことなども考えてプランCまで練った。その結果、ハイドが眠りについたのは日付が変わってからになってしまった。
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