#12 《緑色の脅威》は種をまく
市街地にたどり着くと住民たちはパニック状態に陥っていた。
(とりあえず、レイネスを探すか)
目へと魔力を集中し、レイネスの持つ魔力の道筋をたどることにする。しかし、
(⁉なんだ、この充満しきった魔力は。これじゃあレイネスを探すことはおろか普通に歩くことさえ難しいぞ)
すぐさま作戦変更。目への魔力集中を解き充満した魔力の根源を見に行くことにする。
建物の屋根を走りながらこの街の中央にある広場へと向かう。中心に噴水があり、周囲に建物が並ぶ円形の広場。魔力の根源はそこにある。
早まる気持ちを抑え屋根の上から広場を眺める。ここにも住民たちが溢れかえっている。住民たちがそろってみているのは中心にある噴水。ここからだとよく見えないが緑色の何かがあるのを確認した。
魔力の根源はあれで間違いなさそうだが。っと、学園長がいるな。
緑色の物体のすぐそばにいた学園長のもとに行き声をかける。
「おおハイド君。来たか」
「えぇ。それで、これは一体」
「《脅威》の一部じゃよ」
ハイドの言葉にかぶせ気味に学園長は言った。
・・・《脅威》の一部。
不意にひと月前に見た《灰色の脅威》の姿が脳にフラッシュバックする。あれと色は違うが確かに質感そのものには似ているような気がする。それと、これが本当に《脅威》の一部ならあの時と同じようなことが起きてもおかしくない。つまり、ここに放っておくのはまずいということだが。
「学園長。どうします?」
「今から軍の方へ応援を要請してくる。それまでハイド君はこれを見張っておってくれ」
それだけ指示すると学園長はハイドに背を向け雑踏の中へと紛れていった。
一人残されたハイドは改めてこの緑色の物を観察する。
見た目はすべすべで、押せば戻ってきそうにふっくらとしている。いつか見た悪魔をダメにするソファによく似ている。あくまでも似ているというだけなので触ろうという気は起きない。《脅威》が魔性生物ならその体はすなわち魔力の塊だ。触れただけで自身の体に何らかの状態異常がつく可能性もある。
こいつの正体が精神に関与するものだったら最悪だな。と考えふと思う。
・・・どうして《脅威》の一部がこんなところにあるんだ?
どこからか落下したのかと考え空を見てもオレンジ色に染まりつつある大空が広がっているだけ。
とりあえず先を見てみようと視力を上げ続け百五十キロ地点。木々の生い茂る島が見えた。人工物もあるのも確認できる。何かの被害を受けたような痕跡も見られない。ということは《脅威》が浮遊でもしている間に落下したと考えるのが妥当か。もしくは、意図的にここに落とした可能性。
後者はできるだけ信じたくなかったが充分にあり得る可能性だ。
―肌にびりびりと刺さるような魔力を感じた。
慌てて思考を中断し目の前にある強大な魔力の塊に目を向ける。すると、等間隔に、鼓動のように、生きているかのようにビクンビクンと跳ねていた。
すぐさまバックステップでそれと距離をとるが、ハイドが着地したその瞬間。地面から植物のツタが生えて足に絡みついた。
「ベジテーションの魔力か。『クリエイトウェポン タイプ:アタッカー』」
心中で舌打ちをし、魔力で作り出した剣で絡みついたツタを切り裂いた。
ハイドがそれをしている間、緑色の物体はその姿を変えた。
四本の太い根のようなものが足となり、つぼみのように丸く膨らんだ胴体。さらにその胴体は牙をびっしりと生やした口を花が咲くように広げた。
その口はハイドを飲み込もうとしているのがわかった。そして察す。これは《脅威》の一部ではなく《脅威》そのものだと。
ハイドは内心焦りながらも剣を両手で構え、そして広場に響くほど大きな声で叫んだ。
「全員ここから退避しろ!《脅威》が襲ってくるぞ!」
一瞬の静寂。広場にいる多くはハイドが言っている意味をよく理解できていなかった。しかし、意味をちゃんと理解したものからどんどん喧騒は大きくなっていき住民たちは四方八方に大慌てで逃げ出した。
広場に残ったのはハイドと《緑色の脅威》のみ。
魔力が見えるように片目だけ視覚を調整する。濃密で質のいい魔力の塊。それから地面へと魔力が伸び無数のツタが地面から生えてきた。ただのツタではなく食虫植物のように近づけば噛まれそうな口がついている。
しかし、それしきのことで驚くハイドではない。手にした剣へと魔力を薄く纏い横に一回転する。遠心力により飛ばされた魔力は斬撃となりすべてのツタを切り裂いた。唯一、本体にだけは跳躍で回避されたが、空中では奴も無防備。次々と斬撃を飛ばし着地する前にばらばらに切り裂いた。
落下した緑色の物体はべちゃっと不快な音を立てて地面に衝突。その後、もぞもぞと動き出し元の形に戻ってしまった。
やっぱり駄目だったか。そりゃそうだ。あんなので倒せるのならば誰も苦労はしないだろうし《脅威》と呼ばれるわけもない。さてさて、どうしたものかと襲い掛かってくるツタを捌きながら考える。
ハイドの持つ魔力は奴と同じく『ベジテーション』。これは質で負ける。剣術・体術も一般市民に毛が生えた程度にしか体得していない。立場上、他の生徒たちの戦い方もなんとなく体が覚えているがあれは彼女彼らのものであってハイドには再現することもままならない。よって、倒すのは無理だと判断する。そして、学園長が呼びに行った応援の到着まで時間を稼ぐことにした。
そう決めたところで、視界の隅に別の緑色の物体が動いているのが見えた。大きさは目の前にいる奴の何倍も大きく、宙に浮いている。さらにその物体は体の一部をひねり出すように落下させている。
あれが本体なのだとしたら今目の前にいるのは本当に一部だったってことか。なるほど、納得。・・・している場合ではない。次々と市街地に《脅威》が増えていっているのだ。
市街地全体に大きなサイレンが鳴り響きアナウンスが入る。
『《脅威》襲撃。市民の皆さんは西南港湾区画へと避難してください。繰り返します―』
ようやく街の方でも《脅威》の襲撃を確認したようだ。悲鳴にも似た叫び声があたりで響き、それがハイドの集中を乱すこととなった。
一瞬だけ隙が生まれ、その隙を《脅威》は見逃さなかった。長いツタでハイドの持つ剣を弾き飛ばし、口を広げて襲い掛かってくる。
それでもハイドは慌てずにそれを回避し新たに武器を作ろうとする。
「『クリエイトウェポン タイプ―』」
しかし、それを発動することは出来なかった。
腹部に走る熱。加えて失われていく魔力。
「・・・え?」
何が起きたのか理解するのに数秒を要した。自分の腹部が長いツタにより貫かれていたのを理解するのに。
「おいおい、マジ・・・かよ」
言いながら口から血を吐いた。・・・これ、死んだな。
レイネスは無事だろうか。自分より先に市街地へと駆けて行ったあのエルフ族の少女は。だれよりも兵士になることを目指していたあいつは。それだけ考えハイドは静かに目を閉じた。その瞬間。
「先生から、離れろぉぉお!」
聞き覚えがあるけれど聞いた覚えがないほどの大声。それに気づいた時にはハイドの体は開放され、地面に仰向けで倒れた。
「先生、死んじゃ、ダメ」
レイネスの声が耳元でした。
うっすらと目を開けるとレイネスの顔がすぐそばにあった。・・・近い!
「レイネス、泣いているのか?」
「え、別に泣いてなんか」
「はいはい」
笑ってそう言いながら何事もなかったかのようにハイドは立ち上がり軍服についた土を払った。
改めて自分の腹部を見ると、軍服が破け腹筋が露わになり赤黒い血がこびりついていた。
「とりあえず傷は塞がったか」
「・・・どういうこと?」
何が何だかわからないという風に首を傾げるレイネス。それをハイドは気にも留めず目の前にいる《緑色の脅威》を見据える。
「説明は全部後だ」
「うん。あの《脅威》を何とかしなきゃね」
「戦う気か?」
「だって、殺らなきゃ、殺られる」
言う通りではあるが一度退いて体勢を立て直した方がいい。レイネスはまだ子供で、魔力も開花しきっていない。
「大丈夫。なるように、なる」
「あ、おい」
こちらの制止を無視しレイネスは大きな剣を手に《脅威》に向かって駆けだした。
右から左へ。上から下へ。前から後ろへ。目にもとまらぬ速さでどんどん細かく切り刻んでいく。あまりの速さに《脅威》は再生する間もなく原型をとどめないただのかけらへと変わった。それきり、先ほどのように一個に集まることも動くこともなかった。死んだのだと思うが、それはそれでまずい。レイネスは倒せたことによる安堵か警戒をすっかり解いてしまっている。そのため、自分に迫っている危険に気づけていない。
ハイドは足に魔力を集中させ一歩目で二十メートル先にいたレイネスのもとに行き抱きかかえ、二歩目で近くの建物の屋根へと飛び移った。
「ふぅ。危ないところだった」
後方で大きな爆発音がする。
「え、なに?」
何が起きたのかを一切理解できていないレイネスは自分でハイドから降りるとさっきまで《脅威》がいた場所を眺めた。
「あれ?いなくなってる」
奴の姿は消え、何かが爆発した後が残っている戦場。
「魔性生物は死ぬときに魔力を放出して爆発する。覚えておけ」
「えーと、了解」
ハイドはレイネスが返事したのを聞き流し辺りを見渡す。
今いる屋根とは広場を挟んで反対側にある建物の上にさっきと同じ《緑色の脅威》がいた。迷路のように入り組んでいる路地にも数体、同じ奴がいるのも確認できる。
一応兵士学校は軍の管轄であり、そこで働いているハイドには《脅威》の前から逃げるという行為が許されない。戦わなくてはいけないのだが何か対策をしなければさっきの二の舞というのもあり得る。
「先生、あれ」
思案するハイドを余所にレイネスはある一点を指した。
「ん?あれは、火の鳥か?」
とてつもなく嫌な予感がした。
遠くから近づいてくる火の鳥は、一体の《脅威》の真上で止まり巨大な火柱を作り出し飲み込んだ。
数秒の後、火柱は静かに姿を消しそこには火の鳥だけが残っていた。その火の鳥はこちらを一瞥し近づいてくる。・・・少なくとも敵じゃないことは確かだが、絶対あいつだろ。
「ヤッホー、先生、レイネスちゃん。どうだった?」
姿を人型へと変え屈託ない笑顔を浮かべたのは学校で修練しているはずのシオンだった。
レイネスはただ一言「すごい」とだけこぼし、ハイドは驚いて言葉を発することが出来なかった。
「あれ?もしかしてシオンの成長の速さに驚いちゃった?」
全くもってその通りだよこんちきしょう。普段はアホなのにどうしてこんな時に限って感がいいんだよ。
「特殊能力を完全に制御できるようになったのか」
「魔力もね!」
シオンの頭上に見るからに熱そうな真っ赤な玉が出現し浮遊する。火獣族の
固有魔力『ヴォルカニック』の魔力。
よくもまぁこんな短期間で覚醒したものだ。それが、この状況に限っては救いだった。
一応魔力にも属性と言うものが存在し、シオンが火属性とすると今回の敵は樹属性。こちら側が大変有利だ。
「シオン。さっきと同じように街中の《脅威》を殲滅してくれるか?」
「オッケー。任せて!なんだか実践遠征みたいだなぁ」
もうこれが実践遠征でいいと思うんだが。それを決めるのはハイドではない。
「あ、そうだ先生。ラプトちゃんとはぐれちゃったから探してくれる?もちろんシオンも探すけど。じゃあね!」
火の鳥へと姿を変えたシオンは羽ばたいていった。
一先ず戦いは彼女に任せることにしよう。彼女の特殊能力なら魔力を使わずとも戦うことが出来るはずだ。あとは、油断せず教えたことを覚えていれば大丈夫なはずだ。
「レイネス、行くぞ。ラプトを探すついでに敵を減らす」
「ん、了解」
屋根の上を駆けこちらへ襲い掛かってくる《脅威》をレイネスが処理しハイドはラプトを探す。
それから十分。一分に一体ほどのペースでレイネスは敵を切り倒し額に汗を浮かべていた。
(これ以上はきついかもしれねぇな)
「まだ、大丈夫だから」
「強がるな。今倒れられても困るからな」
「ん、わかってる」
本当にわかっているのか怪しい返事をしさらに数十分。
「お、ラプト発見」
強化した視力の先。ラプトが狭い路地で小さな体を生かして《脅威》を相手にしていた。
素の身体能力が高くないラプトも魔力を使えば素のシオン並みに動くことはできる。
手にした短剣。それから魔力で張り巡らせたツタを使い次々と切り裂いていく。が、レイネスほどのスピードがないために再生してしまう。
「まったく。鬱陶しいです」
肩を大きく上下させて呼吸しているものの、その目は死んでいない。
「『自然の業火よ、焼き尽くせ』」
ラプトは両手を突き出しそれだけ言うと赤色の魔法陣が組まれ、炎が放出された。炎の前に《脅威》は為す術もなく灰となる。
「ふぅ。なんとかなりました」
「すっかり詠唱術をものにしたようだな」
額に滲んだ汗を拭きとるラプトに屋根の上から飛び降りて声をかける。
「あ、先生。私、やりましたよ!」
きらきらと眩しい笑顔を浮かべ小さな手とハイタッチ。その様は無邪気な子供そのものだった。
詠唱術で自分にはない属性を補い弱点をつく。弱点を的確に見抜いたその能力は評価せざるを得ない。
「ふぅ。次に行きましょうか」
ラプトの言葉を無視しひょいと背中に乗せた。
「え、あの」
「立つのがやっとの奴が何を言っているんだ?ツンデレはレイネスだけで充分だ」
ツンデレじゃないと言ったレイネスの言葉を無視して続ける。
「無理したら兵士になれると思っているのならそれは間違いだからな?自分の力を試したいのは分かるが。一人前になる前に無茶しすぎるのは教師として見過ごすことはできない」
言いながら魔力を足に集中し屋根へと跳ぶ。
同じように屋根に乗ったレイネスが小さく言った。
「学校側が、生徒たちを戦わせているみたい」
「・・・そのようだな」
あたりを見渡して同意する。
そこかしこで爆発が起こり、悲鳴が飛び交い、そこにいるのは軍服に身を包んだ子供たちばっかりだった。と、いうことは自分のクラスの奴らもいるのだろうと思い戦場と化した街を眺めているとトフレの姿があった。エドパスの姿も見えた。自分の教え子たちが二人ないし三人一組で《脅威》と戦っている。
彼女彼らの今の実力なら、この程度の《脅威》になら勝てるかもしれない。
ここでハイドの脳裏にまたも《灰色の脅威》の姿がフラッシュバックした。ものの数分で一つの島を破壊する力をもつあいつ。それに比べて今回のは分裂して数を増やしこそすれど圧倒的と呼べるほどの破壊力はない。否、あの《脅威》はまだ見せていない強大な力があるということ。警戒はいついかなる時でも解いてはならない。この教えを生徒たちが覚えていると良いが。
「先生、あっち」
隣を行くレイネスが突然左前方を指した。
「多分、誰か死んだ」
淡々と述べられすぐさま進行方向をそちらに変える。
ハイドには何も異変を感じることが出来なかったが、レイネスの優秀な聴力は消えてしないそうなほど細い微かな悲鳴を聞いたのだった。
そこもまた先ほどと同じ細い路地。ラプトの戦闘跡のように建物間にツタが張り巡らされているのだが、
「きゃあ!」
背中の悲鳴が気にならないほどその光景は衝撃的なものだった。
ぽたぽたと赤い血が滴り地面に血だまりを作っている。それを作り出しているのは、張り巡らされたツタに貫かれ宙吊りになっている少女。軍服に身を包み、背中にはラプト同様、蝶のように美しい羽が生えていた。
誰の目から見ても絶命している妖精族の少女。レイネスが聞いた悲鳴は彼女のものだった。
「ラプト、もしかして知り合いか?」
「少なくとも、同じ里の出ではない、です」
出身が違えど同族であることに変わりはない。いまにも泣き出してしまいそうなラプトを一旦レイネスへと預け少女の死体に近づく。
ツタに乗るのはさすがに強度が心配だったので地面から傷だらけの体を見上げ、死体を見るのはこれが初めてではないというどうでもいいことが思い出される。
真っ赤な血。光のない目。不自然に曲がった手足。
・・・ったく、嫌なことを思い出したな。今はこんなことよりもこの少女を開放してやんねぇと。さすがに宙吊りのまま放っておくのはかわいそうだ。
いつかと同じ要領で魔力を右手に薄く纏わせた手刀でツタを切り裂こうとした。
だが、それは突然動き出す。息絶えていたはずの少女は光のない両目を見開き、自らの体内に拘束していたツタをまるで掃除機のコードのように回収した。異常はそれだけにはとどまらない。少女の下半身が緑色に変色し丸く膨らみ《脅威》を生成した。
「なんだ、こいつ」
正体がわからないものには迂闊に近寄らない。それが兵として生きる上で重要なことだ。ハイドは兵士でこそないが兵士を育てる教師としてそのことを心得ていた。瞬時にレイネスとラプトがいる屋根へと跳んだ。
「先生、あれは?」
「はっきりとはわからないが、考えられるのは『パラシティカリー』。寄生の魔力だな」
さっきまで相手にしていたものに人型の上半身が追加される。たったそれだけでグロテスクに見えるのだから不思議だ。
「どうするの?」
「やることは変わらない。敵が増えたのを黙って見ていることだってできない。あと、これは俺の経験からの推測だが、寄生された体を破壊すれば後付けの体も崩壊するはずだ」
「じゃあ、私がやる」
泣きじゃくるラプトをハイドに戻し、レイネスは《脅威》へと大剣を振りかざした。
この時、ハイドは忘れていた。《脅威》もとい魔性生物に常識は一切通用しないということを。
レイネスは言われた通り妖精族の少女の亡骸に狙いを定め何度も剣を往復させた。ものの数秒で亡骸は原型をなくし、普通の『パラシティカリー』の魔力ならばこれで終わりだった。・・・終わらなかったのだ。寄生した体を失ってもなお一つの体として完成していた下半身が矛を収めたレイネスへとツタの触手を躍らせた。
それを見てハイドはようやく言ったことが間違いだったことを理解する。声で呼んでも間に合わない。なら自分で行くしかない。
今日で何度目かわからない魔力集中を足にして屋根を蹴る。
数枚の煉瓦が飛んだのも気にせず勢い任せに体を捻ったローキックを《脅威》に叩き込む。《脅威》は後方に跳ばされながらも何本もの触手で勢いを殺して止まったものの、勢いを止めないハイドの二度目の蹴りによって空高く舞いどこからか放たれた炎により燃え尽きた。
「よし、なんとかなった」
「先生、ラプトが」
背中に目をやると、あまりの勢いに耐えることが出来なかったのかラプトが目を回していた。
「これくらいでへばってもらっても困るんだけどな」
「先生!また会ったね。って、ラプトちゃん⁉」
ボソッと呟くハイドにシオンが声をかけ、背中にいるラプトの姿を見て声を上げた。やはりさっきの炎はシオンによるものだったようだ。
「《脅威》め、よくもラプトちゃんを。謝ったって許さないんだから!」
「それやったの、先生」
こらレイネス。余計なことを言うんじゃない。生憎熱くなっているシオンの耳には入っていないようだけど。
「なぁシオン。魔力の感じはどうだ?」
「乱発しすぎてさっきので最後!」
おい笑顔で言うなよ。こいつは本当に期待を裏切ってくる。
「戦闘時の魔力切れは命に関わるって何度も言っただろ。・・・って、待てよ。このままだとまずいな」
「先生?」無視して試案を開始する。
「クラスでも五本の指に入るシオンがすでに魔力切れを起こしていてラプトも気絶している」
「ラプトの気絶は、先生のせい」・・・無視する。
「レイネスも体力の消費が大きい。じゃあ、五本の指に入らないあいつらはすでに魔力も体力も切らせている可能性が高いな。それに、覚醒しきっていない奴らばっかりなのに」
「先生!早く行こっ!」・・・この言葉は無視できない。
ハイドは慌てて屋根を駆けだし特殊組の生徒たちを見つけては広場に行くように指示する。なかにはけがを負っている生徒もいたが、これは班行動の良いところ。けがを負った生徒を無事な生徒が背負って移動する。
広い市街地をかれこれ三十分ほど駆け特殊組全十九名の広場への移動指示が終わった。
ハイドも広場へと向かい生徒の数を確認。半分ほどがけがを負い魔力切れを起こしている状態だった。よく死なずに戦えていたものだと感心しそうになる。だが、褒められたものでもない。
「いいか?今から五人一組で行動してもらう。ただし、状況が状況だ。常に死が隣にある。魔力切れなら特にな。よって、魔力がなくても使える特殊能力を駆使しろ。何かあれば広場に戻ってこい。街への被害をこれ以上増やすな!」
『了解』
クラスの全員が返事し生徒たちは五人一組で街中に散った。
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