#4 カルベン兵士学校

 医務室へと向かった少女の背を見送り視線を教室全体へと向ける。

 レイネスの自己紹介でこのクラスの自己紹介は全員終わったことになる。と同時に出欠の確認もできた。聞いた名前と特殊能力を記憶する。

 大丈夫。しっかり覚えられたはずだ。

「そういえば、一人来ていないようだけど誰か知っているか?」

 その問いかけに生徒たちはそろいもそろって不思議そうにハイドの方を見た。何かまずいことでも聞いただろうか。

「逆に聞くけど、先生は知らないの?」

 逆に聞かれても知らないから聞いたのだ。知っているはずがない。

「悪い。誰か説明してくれるか?」

「まったく、しょうがないなぁ」

 自ら説明することを申し出たのは緋色の少女、人型火獣族のシオン。

「このシオンが説明してしんぜよう」

「お、おう。頼むよ」

 シオンは立ち上がり楽しそうに笑って話を始める。

「そこの欠席者は今、実践遠征中なんだよ」

「実践遠征?」

「あれ?それも知らないの?先生なのに?」

 先生だからと言って何でも知っていると思ったら大間違いだ。特に、この学校に関しては詳しい説明もされないまま着任した。前情報もほとんどなく、アーウェルサを《脅威》から守るための兵士を育成する学校としか知らない。

 逆にそれを知っていたから実践遠征と言うものが何を示しているのかは分かった気がした。

「今いない魔神族のバセッタ君はね・・・って先生どうしたの?急にむせちゃって」

 思わぬところで魔神族と聞き、悪いタイミングで唾液を飲んだら気管に入ってしまっただけなのだが、破壊と戦闘に飢えたあの種族がこの学校にいたとは。世の中わからないものだ。

「大丈夫、続けて」

「うん。で、バセッタ君はアーウェルサの《脅威》と絶賛戦闘中なんだよ」

「つまり訓練中ってことだな?」

「いやいやまさか。《脅威》そのもの戦っているんだよ」

「・・・訓練じゃなくて?」

「訓練じゃなくて」

 そんなことがあるのか?あるからこんなことが起きているのか。

 この学校に通っている者は全員が成人に満たない子供だ。だから、バセッタと言う会ったことのない魔神族も子供であるはずだ。兵を目指している子供が成人にもならず、この学校を卒業する前に戦場へ行く。

「こういうことってよくあるのか?」

「うーん。あったっけ?」

 思い当たる節がないのか首を傾げるシオンに変わり、その隣にいた緑髪の少女が答える。

「過去にはいないはずです。なんでも、バセッタ君は特例だとかで」

「へー、そうなんだ。ラプトちゃんは物知りだね!」

「知らない方がおかしいんですよ!」

 緑髪の彼女の言う通りだ。特例者が自分のクラスに出ているのなら知らない方が不自然ではある。

「すっかり忘れてたよ。だから後でパンツ頂戴ね!」

「だから何で⁉」

 若干涙目になりながら訴える緑髪の少女ラプト。彼女は妖精族で多種多様な種族がいるこのクラスでは一番幼く見える。というか外見年齢で一番幼いのはやはりラプトだ。これは妖精ゆえに仕方ないことで人間の小学校低学年にしか見えない。

 逆にシオンは人間の高校生のような見た目をしており、この状況だけを切り取ってみると、シオンがラプトをいじめているように見えなくもない。

 しかしそれがこのクラスでは日常と化してしまったのか「また始まった」と言わんばかりにため息をつく生徒が多数。

「何はともあれ説明助かった。座っていいぞ、シオン」

「これで恩返しができたね!」

 真の目的を全く隠さずシオンは着席した。きっと嘘の付けない素直なタイプなんだと思う。

 これで一応はクラスの生徒を把握することが出来た。けどいろいろと気になることが増えた。

 学生の、子供の兵士としての実践遠征。

 個々の特殊能力について。

 そして、レイネス・メリケル。

 彼女のことが気になるのは単に同族としてなのか。それとも過去に似たような教え子がいたからなのかハイドは判断できなかった。

「先生!これから何をする?」

 シオンが挙手してそんなことを訊ねてきた。

「そうだな・・・うわ、時間も微妙だな」

 首から下げたネックレス型の時計を確認しハイドは手にしていた資料からこのクラスの今日の時間割なるものを発見した。

 この紙の通りだと特殊組の次の授業は魔力講習。場所は校舎の裏にある校庭で各自戦闘用の軍服の着用と書かれている。

「よし、お前ら次の準備をするか自習をしていてくれ」

 そう言って黒板にでかでかと自習と書き教室から出た。

 ハイドが出た途端教室が騒がしくなったが、それを気にも留めず歩みを進めた。

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