『命の天秤』の特徴とは!?

本作で使用された比喩表現の解説

 前回は詩『命の天秤』における比喩表現のご紹介となりましたが、今回は作中で使用された比喩表現をピックアップしていきます。


 一つめは第一幕の『初めて見せる少年の心と涙』の最後に書かれている、「香澄はトーマスの心の重りをはたき落とし、彼の肩に降り積もる埃を、そっとサンフィールド家のお墓に沈める……」を解説していきます。


 この部分については、今までトーマスが心の奥底に抱えていた苦悩や不安・孤独といったものを指します。トーマスの心の重りとはこれらの感情や気持ちのことで、少し前に香澄が彼へ「自分の気持ちに嘘はつかないで!」と必死に説得する場面があります。

 そんな彼女の真剣な気持ちが彼の心に届いたのか、話の最後でトーマスが香澄たちの前ではじめて涙を流す場面があります。その場面に流れる場面として、「香澄……お墓に沈める」がつながります。

 

 同様の流れで以下の文章もつながる形となり、「彼の肩に降り積もる埃=トーマスの心に少しずつ蓄積された、不安や孤独といった負の感情」「サンフィールド家のお墓に沈める……=過去を振り返るのは止めて、これからは未来を信じて生きることを決心する」という意味になります。


 つまりこの部分を翻訳すると、以下の通りとなります。

 [私(香澄)の必死の想いが届いたのか、今まで涙を見せることがなかったトム君の瞳から、大粒の涙がこぼれています。この子はその小さな心に、これまで多くの不安や悩みを抱えていたのでしょう……そんなトム君を私はそっと抱き寄せ、彼の頭を撫でながら優しくあやすのでした……

 それはまるで、彼が心の奥底に貯め込んだ不安や孤独といった感情を、吐き出すかのように……同時に彼は過去を振り返るのは止めて、私たちと一緒に未来を信じて生きることを誓ってくれるのでした……]


          『初めて見せる少年の心と涙』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884340951/episodes/1177354054884525895


 次に第一幕『困惑するプレゼント選び』から、最後の一文「ウェストレイク・センターにはオレンジ色の日差しが注ぎ込み、薄いレースの向こう側では、多くのシルエットたちがそれぞれの役どころを演じていた……」について、ご説明したいと思います。


 ウェストレイク・センターとは香澄がトーマスのプレゼント選びにおいて、商品を購入した場所のことです。次の「オレンジ色の線が注ぎ込みはじめ」という文章については、時間が日中から夕方になることを指しています。

 オレンジ色の線とは「夕暮れ時に登場する夕焼けの日光」のことで、それが次の「薄いレースの向こう側では」へとつながります。レースとは手芸で使用する薄い生地のことですが、ここでは空(夕焼け)からウェストレイク・センターを見た視点での表現となっています。

 それをふまえながら次の文章「多くのシルエットがそれぞれの役どころを演じていた……」へと、つながっていきます。ここでは夕焼けの視点から地上を見ていることになるため、「多くのシルエット」とはのことを指しています。

 そして「それぞれの役どころを演じていた……」とは、を例えている一文となります。


 以上のことをふまえると、この一文は次のような意味となります。


 [私(夕焼け)が時を告げる夕焼けの光を注いでいるウェストレイク・センターでは、今日も色んな人たちが過ごしています。薄いレースの奥にある世界を少し除いてみると、お店で買い物や食事を楽しんでいる買い物客・店員としてあちらこちらに動きながら、一生懸命お仕事をする姿、などが見えます。

 私がいる空高くから見上げると、それはまるで多くのシルエット(影)が舞台(ウェストレイク・センター)でお芝居を演じているような、とても楽しい光景に見えるのです]


 この一文では、夕焼けの視点から例えた内容となっています。なので今作の主人公である香澄自身も、この中ではただの「シルエット」として、夕焼けには映っています。

 また夕焼けとは本来意思や感情などを持たないため、一種の擬人法が使用されています。


           『困惑するプレゼント選び』

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884340951/episodes/1177354054884965570


 作中では第一幕を中心に、これらの比喩表現を多用したのではないかと思っています。またこれらはあくまでもほんの一例なので、厳密には他にも比喩表現をした場所はあります。ですがすべてをご紹介するときりがないため、この二つだけにとどめておきます。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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