詩『命の天秤』の原文と翻訳
数回に分けて詩『命の天秤』の翻訳という形で、その内容を説明していきました。そこで内容をまとめるという意味を込めて、下記に詩『命の天秤』の原文と翻訳後の詩をご紹介します。
『命の天秤(原文)』
一(a)
足音叩くと 誰かの歌が流れる街
ハムサンド頬張る 無邪気な笑顔
見える気がした
一(b)
通り雨のように 降り注ぐ朝日が
眠った哀しみ また呼び起こす
一(c)
琥珀色の滝に心休めると
バスタブで髪を
優しい気持ち溢れるの
一(d)
あの時“好き”だと言ってくれた
二(a)
太陽と月が 見張りを交代した時
命の天秤は 寄り添いながら
切なさ揺らす
二(b)
夢心地な声で 面影へ祈っても
あなたの心は 振り向かないのね
二(c)
寂しさの海に眠る この体は
青空へそっと向かうけど
想い出は
二(d)
あの時“好き”だと言ってくれた
三(a)
時の迷い人の声に 誘われて
天使の温もり 置き忘れ
三(b)
あの時”好き”だと言ってくれた
『命の天秤(翻訳後)』
一(a)
[私(香澄)は今日も一人で、街中を歩いています。するとふとしたことから、
一(b)
過去のことは忘れて、未来に向かって歩き続けよう……そう心に決めたはずなのですが、思い出したくないつらい過去が時折私の夢の中で具現化されます。“もう……止めて!”と声を出すと、そこには夢の世界から目が覚めベッドで一人涙を流している私がいるのです。
こんな体験も今日が初めてではなく、何の前触れもなくある日突然やってきます。それはまるで、気まぐれでやってくる通り雨のように……何度も……何度も……
一(c)
私自慢の綺麗な髪の毛を維持するためには、何と言っても日々のお手入れがかかせません。特に気持ちの良いバスタブのお湯に体を浸かりながら、髪を
別の表現に例えるとそうね……ちょっとした息抜きにポットに熱々の紅茶を淹れて、それをティーカップで一口ずつ飲む瞬間かしら? この時もすべて嫌なことを忘れられるから、どちらも私にとって欠かすことが出来ない時間だわ!!
一(d)
別れ際になって、トムが初めて教えてくれたあの子の本当の気持ち……“好き”という一言だけど、その言葉が私の頭の中から離れないの……
ねぇ、トム……今の傷ついた私は「あの時、あなたが告白してくれたお姉ちゃんに見える……かしら?
二(a)
日中は勉学に励むという私(香澄)なりの日々を過ごしており、今日も色んなことを学んでいます。たまに友達や知人たちと遊びに行ったり、楽しいお話を楽しむこともあります。ですが太陽(日光)が沈む時間帯になると、外は月(夜)が支配する時間となります。それはまさに太陽と月が見張りを交代する瞬間でもあり、私の心の奥底に眠っている、楽しかったあの時の想い出も蘇ってしまいます。
今(現実の世界)を生き続けなければならない私なのに、なぜか想い出(過去・夢の世界)に眠るつらく哀しかった出来事ことばかり考えてしまいます。私の心は『命の天秤』のように、二つの相反する心を揺らしているのです……
二(b)
トムが一人で寂しくならないようにと思った私は、「困ったこと・悩み事があったら、いつでも相談してね」と伝えました。夢の世界のようにうっとりするような、優しい言葉を……
それでもトムは私の声に答えてくれることはなく、数年前に他界してしまったご両親のことばかり考えているようです。あぁ……私はこんなにあなたのことを心配しているのに、トムは私の声に振り向いてくれないのね……私の声に耳を傾けてくれないのね……
二(c)
友達や知人たちは私のことを心配してくれて、その度に私は“もう大丈夫よ、ありがとう”と声をかけます。そんな友達や知人たちと一緒に時を刻み続けなければならないけど、私が望んでいることはただ一つだけ……
トムの声が聞きたい……トムの笑顔が見たい……。それは叶わない夢だということは分かっているけれど、私の心はあの子がいた世界を夢見続けているのです……
二(d)
別れ際になって、トムが初めて教えてくれたあの子の本当の気持ち……ただ『好き』という一言だったけど、その言葉が私の頭の中から離れないの……
ねぇ、トム……今の傷ついた私は「あの時、あなたが告白してくれたお姉ちゃんに見える……かしら?
三(a)
[私(香澄)たちと一緒に暮らしていたトムは、不幸な事故で亡くなってしまったご両親のリースとソフィーのことばかり思っています。その想いは日を増すごとに強くなっていく一方で、ついにご両親との思い出がトムの夢にまで出てくるようになりました。
そんな夢を繰り返し見ていくうちに、トムはリースとソフィーの声(夢や思い出など)に誘われるように、私たちが予想もしなかった行動に出たのです。
ですがそんな結末など無論望んでいなかった私たちの心には、塞がることがない大きな穴が開いてしまいました。あの子がもう少し私たちの本当の気持ちを知っていれば、こんなことにはならなかったと思います。そう……何も言わずに散歩に行った、無邪気な少年のように……
私たちはもう二度とトムと触れあうことが出来ない……一緒に笑うことも出来ない……そしてもう……その温もりを感じることもない……
最終的に大好きなご両親のリースとソフィーの元へ行けたのだから、トム自身はそれでいいと思っているかもしれません。ですが残された私たちの心には、少し前まで一緒に暮らしていたトムが自分たちの目の前で旅立つ……という非常に残酷な結末を迎えてしまいました。
そしてそれは私たちの心に深く哀しい思い出を残してしまい、当分の間、いえ……もしかしたら一生癒えることのない心の傷かもしれません。それはまるで……悲嘆という名のメロディーを奏でている王子様のように……
別れ際になって、トムが初めて教えてくれたあの子の本当の気持ち……ただ“好き”という一言だったけど、その言葉が私の頭の中から離れないの……
ねぇ、トム……今の傷ついた私は、あの時あなたが告白してくれたお姉ちゃんに見える……かしら?]
これが詩『命の天秤』に秘められた、詩の翻訳となります。途中トム君やそのご両親、そして香澄ちゃんの友達といった言葉が出てくることがあります。
しかし中心人物はあくまでも高村 香澄(命の天秤の主人公)です。そして表向きには目にすることが難しい、彼女の内面や心がテーマとなります。
また作品の内容を深めるためやより上品に演出するため、詩を作る際には比喩表現を多用しました。ただ「悲しい」「寂しい」とストレートに表現すると、「心」や「命」の重さを演出することが出来ず、説得力に欠けるからです。
そこで私は可能な限りストレートな表現は使用せず、あえて比喩表現を使うことで、読者さまにその意味を考えてもらうことを意識しました。
「この詩は一体どういう意味なんだろう? この文章を読む限りだと、おそらく〇〇的な意味かな?」
というように読者さまご自身にも考えてもらいながら、詩や作品を読んでもらうことも合わせて意識しました。
詩以外に作中でも比喩表現を多用した場面は多々ありますが、その説明については次回ご紹介したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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