あたしの故郷

第159歩: 街は思う その四

 闇夜の中で街は思う。


 あの子どもに覚えがある。かつて、街の一部だった子どもだ。体が弱く、日が沈まなければ外に出られなかった子どもだ。

 なぜそこにいるのだ。

 五月の明るい陽のもとに。

 なぜまだいるのだ。

 長い時が経ったというのに。


 知りたい。

 自らの言葉で聞いてみたい。

 こういう時ばかりは、動かぬこの身が疎ましい。

 送り出した分身が、代わりに聞いてはくれまいかと思う。


 分身。

 あれは望み通りにヒトと会い、強い関わりを持った。

 そのために呼び戻し、送り込んだ身体だ。使い魔契約には驚かされたが、庇護を得て死の危険は大きく減った。

 出会った者が旅をする人間だったことも嬉しい偶然だ。

 今この時も遠く離れた目として、耳として、街の抱える寂しさをうずめてくれる。

 

 だが、街にもひとつ懸念があった。

 あれ以来だ。

 あれ以来、分身に変化が起きている。

 あの娘が空間を飛び越え、街が分身をしばし見失って以来。

 あの時、機能制限が外れていたからか、それとも、迫る危険がきっかけになったとでもいうのか。


 私の分身、遠く離れた目よ、耳よ。シュダマヒカの忘れ形見よ。お前はいったい何を宿したのだ。


 闇夜の中で街は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る