第135歩: 文字に込める

 "昨日二十八日の午後、西部魔法協会ウ・ルー支部に包丁を持った男が人質を取って立てこもった。七月彗星アフルンコメタ小路は一時騒然となったが、協会所属の魔法使いの協力により人質は無事解放、男はけい隊によって取り押さえられた。怪我人はいずれも軽傷。男は行方不明の妻の捜索を断られて腹を立てたと述べている。魔法協会は同日朝に非常事態を宣言したばかりであり、不運な行き違いとして男を擁護する声もあがっている"


 ──『日報ユリエスカ』、四月アブリュウの二十九日付け記事




 "アルビッコ、無事? 昨日の事でびっくりしちゃって協会さんに来てるんだけど、アルビッコは外に出てるって言われたから、怪我とかはないって聞いたからもういいんだけど、せっかく来たから手紙書いとくね。アルビッコはずっとアルビッコだったから、あんたがアルルだってことちょっと忘れてた。シェマさんにもよろしく。

 フラヴィア"


 ──協会受付にてオルトが預かった置き手紙。




 "二十八日、そとみなと沖に立ち往生していた大型船が救助作業の末に入港したが、陸に降り立った船員、旅客には怪我人も多く殆どが満足な治療を受けられずにおり、容態の悪化が懸念される。宿不足も深刻で、行き場を無くした人々は各区の公園、やしろの広場で寝泊まりを余儀なくされている。ウ・ルー市は市民に対して空き部屋の提供を呼び掛けており、各区の役場にて申し出を受け付けている"

 

 ──『ウ・ルーの声』三十日付け記事。




 "アル坊

 よく知らせてくれた。エカんとこにはオレから伝えておく。海竜の件はちと時間をくれ。なるべく急ぐ。ホップはやけに心配してるが、オレはしてねぇぞ。しっかり働いてこい。

 父より"


 ──ララカウァラからカケスが届けた手紙。




 "フラビー

 顔ぐらい見せようと思って三日月サルーンに来たんだけど、髪結いに出てるんだってな。俺は無事だよ。あとシェマも。ここしばらくはうちみなとで船なおすのを手伝ってる。魔法使いっていうより大工だな、これじゃ。高波の事と、フラビーが無事だって事は親父がおばさんたちに伝えてくれるって。

 あと、帰り道はできれば灯り屋さん頼むなり、誰かと帰るなりしてくれ。やっぱりちょっと不安だ。

 それから、この機会に俺の呼び方を改めてくれ。

 アルル"


 ──三日月サルーン店主が預かった置き手紙。




 "ここで寝るな! どっか行け!"


 ──路地裏の貼り紙。




 "大破した海竜船の解体作業は、倉庫に刺さった巨大なながえ(馬車などで馬に引かせる為の、対になった棒状の物)の取り外しが行われた。取り外した轅およびその他部品は先日帰港した往還船第七号へ取り付け、そうが完了し次第、海竜捕獲へ向け出航の予定"


 ──港湾貿易新聞。五月マイゥの一日付け記事。




 "今回の高波は魔法使いが引き起こしたものだと聞きました。なのに彼らが捕まらないのはなぜですか? 協会に立てこもった人も奥さんを亡くしたそうじゃないですか。あの人だけが悪いんじゃないと思います。私の大切な友達も、尊敬する人の弟さんも、高波で死にました。昨日、魔法使いが私の職場に来ました。普通に喋って、笑って置き手紙なんて書いていました。それを私の尊敬する人に渡すんです。どうして彼らは罪に問われないんですか? もっと調べて、本当に悪い人を捕まえてください"


 ──カウネ・ウショイトラから警邏隊宛ての要望書。




 "親愛なる夫人

 内港はどうにか船を出せるところまでこぎつけました。愚かな街の連中が騒いでおりますが、夫人と旦那様に置かれましてはくれぐれも御身の安全に留意なさって下さいまし。お庭の草もそろそろ伸びてくる頃合い、私めは一刻も早く事態を収め、またお庭のお世話に戻るのを心に励んでまいります。

 イルマン・ハンパイタ


 追伸


 件の猫によく似た猫を内港で見かけました。汚名を返上せしむる日も近くあろうかと"

 

 ──ライリ・トルキス=ファーへ使用人からの報告書。




 "    出航届

  ユリエスカ郡港湾監督官殿

  出航 五月の五日を予定

  目的 海竜の捜索、及び拿捕

  船名 半島往還船七号

  船長 カプテニ・クォレンマトン

  所有 ライリ・マーラウス海送

  船籍 西部連合北半島


  署名 ライリ・トルキス=ファー"


 ──出航届。




 "助け合いましょう!

 ネネ殿でんはかつての飢饉の折り、御自らのお召し物を売ってパンを施されたとあります。われわれもそれに習おうではありませんか。奇しくもこの大路は一区から六区までを繋ぐ大通りです。今こそ市民一丸となってこの災害に立ち向かいましょう。詳しくは大路沿いの各商店まで。

 妃殿下大路商店会"


 ──大路沿いに張り出されていた広告ビラ。




 "高波の被害に遭われた皆様へ。髪、あらいます。お気軽にお越しください"


 ──三日月サルーンの貼り紙。




 "昼の間、観月館は蒸し風呂を解放いたします。

 夜のお二階もぜひご贔屓に"


 ──歓楽街入口に立った即席看板。

 



 "ライリ・マーラウス海送社長宅で小火ぼや騒ぎ。火は邸内の小屋と庭の一部を焼いたものの、使用人らにより消火、怪我人なし。火事の原因は不明、火付けの疑いも"


 ──『日報ユリエスカ』五月の二日付け記事。




 "親愛なる姉さん。

 ペブルさんから聞いたと思うけど、私は無事で、元気です。でも、この前の手紙の事は忘れて。今は、ウ・ルーには来ないで。いいなと思ってたお部屋が波で流されちゃった。それから、やっぱり今は危ないです。私は平気です。でも、落ち着いたらまた誘います。姉さんなら、働き口もすぐ見つかるよ。だから考えてて。

 母さんとフビッカちびフーグビッカビッカもっとちびグーにもよろしくね。エルクにも。

 グビッカビッカかわいーい! あいたーい!

 大きい方の妹より"


 ──ウ・ルーからララカウァラへの手紙。




 "三日の日曜日プリマに炊き出しやります。素描小路と七月彗星アフルンコメタ小路の交差する広場に集まってください。お手伝い歓迎"

 

 ──コワモテ旦那のワクワク厨房、入り口の貼り紙。




 "支部長

 ウ・ルーの状況につきまして、承知いたしました。リウシュウさんの父君の件は誠に残念です。一同、非常に心を痛めております。ご多忙の中、家族の安否についてご確認いただきありがとうございました。

 すでにクロサァリからの了解は得られており、すぐにでも戻りたい所ですが、リンキネシュでも湾は荒れ模様のため出航の目処がたっていません。よって陸路で二週間ほどとなりますが、人数分の準備を整えるのが容易でないため、まずはリウシュウさんを先に出立させたいと思います。

 どうかご無事で。

 ホーネン・ルンダート"


 ──リンキネシュからカケスの届けた手紙。



 "愛するおばあさま

 お元気ですか? お変わりありませんか? 北半島は寒い寒いと思っていましたが、二回も冬を越せば慣れるものですね。アヴァツローは霧の季節も終わって、気の早い三色スミレが花をつけている頃でしょうか。

 私は元気です。私の生意気な猫も相変わらず生意気です。少し太りました、あいつ。

 それから、学院で後輩だった子がウ・ルーにやってきました(私が呼んだんですけど)。最初の手紙でサルーン(おやまあ!)のお話をしたのを覚えている? そこの髪切りさんと後輩くん、幼なじみだったんですって。お互いが知り合いなのを知らなくて、私と、髪切りさんと、後輩くんとでおたおたしてしまいました。

(だけど後輩くんとはこの間言い争ってからちょっと気まずいの。仕方ないのでここは私が大人になろうと思います)

 早いもので、私の派遣期間も今月までです。最後の最後で大きな仕事が来たので大変ですけど、がんばって終わらせてきますね。

 どうかお体に気をつけて。


 あなたの子猫ちゃんシェミーより。


 追伸

 帰ったらおばあさまのバクラウァが食べたいです"


 ──ウ・ルーからアヴァツローへの手紙。




 "西部魔法協会ウ・ルー支部様

 かねてからお話差し上げていたとおり、ライリ・マーラウス海送は五月の五日より海竜捕獲を執り行う事となりました。つきましては、御協会にも協力頂きたくここに依頼いたします。詳細は別紙参照の事。


 マンジァ様のご加護を願って。

 ライリ・マーラウス海送 社長

 ライリ・トルキス=ファー"


 ──ライリ・マーラウス海送から魔法協会への正式な依頼文書。

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