第87歩: 街は思う その三

 ヒトの時間は短く、長い。

 四月の陽は明るく、けだるい。

 この空ばかりが広い閉ざされた街にも、虫が、鳥が、街の小さな生き物たちが子を成し、若芽が吹く。

 虫たちは時折、街の縁から飛んでいく。または落ちていく。ただ、外の大地に降りたったとしても、そこで増える事はできない。

 生きて行くならば、遥かな山並みの向こうか、荒波の渦巻く海峡の向こうまで飛んで行かなければならない。

 この島で、この街の中だけが、命を育む。

 街の外ではただ乾いていくのだ。

 腐ることさえできずに。


 ヒトの時間は短く、長い。

 四月の陽は明るく、けだるい。


 竜の魔法使いが去ってどれだけたったか。

 黒い海の向こうを眺め、街は少し羨ましい。

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