第39歩: 森へ
お
広場には屋台の骨や
祭司さんや、洗濯してくれた
反対側をみれば、目抜き通り。青と黄色の菱形が彩る通りは、
その二つの間を、
いよいよ祝祭を迎えようか、という高揚感を割って通る物々しい集団はひどく場違いで。
なんだか
「あの感じわるいやつを捕まえにいくの?」
手綱を操る警邏の尻と、その後ろに乗るアルルの腿に囲まれながら、ヨゾラはそっくり返るように上を見る。
「そうだ。俺たちはそのお手伝い」
まっすぐ見下ろすようにして、アルルが答える。
「感じわるいから捕まえるの?」
「そんなわけあるか。三人組の一人を銃で撃ったから捕まえに行くんだよ」
「でも、あいつはひどいやつだったよ。ひどいやつをひどい目にあわせても捕まるの?」
アルルはちょっとだけ何か考えて、けっきょく言ったのは
「そうだ」
だった。
「ふーん」
釈然としないまま、ヨゾラは前を見る。警邏の尻から目をそらすと、ドゥトーの青いローブの端っこが見えた。
「あんまり余計なことは考えるな。あの感じのわるいユニオーを見つける。見つけたら知らせる。知らせを受けた人が捕まえる。俺たちはそれだけ考えることにしよう」
そう言うアルルの首から、細長い金属の笛がぶら下がっている。
「わーったー」
揺れる馬の背中で、仕立て屋が過ぎていくのを見ながらヨゾラは返事をする。
アルルの服、直ったかな。
あの太い男からいろいろ聞き出したあと、髭の警邏長はあわただしく動き回っていた。なにか、いろいろ手続きという物をしているのだ、とドゥトーが教えてくれた。
ちょっと暑いからと、アルルは帽子と手袋を荷物ごと警邏の詰め所に置いてきていた。持ってきているのは塩と水と杖だけだ。
「その杖、なんで持ってきたの? 魔法の杖なの?」
身体ごと振り返ってヨゾラは訊く。アルルのアゴぐらいまである、だいぶ長い杖だ。よく見ると、手で持つあたりを布で締めてある。
「いいや、ただのイチイの杖。頑丈だし、歩くとき楽だし、何かと便利だ」
「いま使う? 邪魔じゃない?」
「好みの問題」
アルルは鞍の後ろを左手でつかみ、右手で杖を立てるようにして持っている。片手がふさがっているし、杖の上半分ぐらいは頭の上に突き出て、馬の早足にゆらゆらしている。
やっぱりなんだか邪魔そうだ。
「ねぇ、爪とぎたいからそれ貸して」
「やだよ。気に入ってるんだこの杖」
とアルルはヨゾラから杖を遠ざける、
「うしろのお二人? 一人と一匹? さん。ちょっとは緊張感持ってもらえないか」
手綱を握る警邏がちらりと振り返ってからそう言った。その声は怒っているのかなんなのか、ずいぶん硬い響きがあった。
「……キンチョーカン?」
「あとで教えてやる」
小さな声でアルルはヨゾラにそう言うと、それからは黙った。
背の高い青銅細工の柵の向こうは、思ったよりは小さな庭園。
屋敷にたどり着くのにも一苦労するような庭を想像していて、アルルは少し拍子抜けした。
柵の向こうにいた庭師が馬に乗った警邏の集団を見て、腰を抜かしそうになりながら
隊列が屋敷正面の
「何の真似だ……! 役人風情がこんなことをして、覚悟はできているんだろうな?」
視線で殴りつけるかのように一団をにらみつけるゴーガンの、歯の間から言葉が漏れる。
警邏長が馬から降りた。ゴーガンの視線にまったくひるむことなく、あくまで事務的に、要件を告げた。
「ウールク・ゴーガン = ユニオーに強盗の示唆、盗品の購入および銃による重傷害の嫌疑がかかっている。ご子息はどちらか?」
「なんの権利があって我が家に踏み込むか!」
真っ青な顔で怒鳴るゴーガンに、警邏長は丸めた紙を広げてみせた。
「エレスク
それに続いた警邏長の言葉は、彼個人のものとアルルには聞こえた。
「そんなことは、させてくれるな」
ぱぁぁぁん、という炸裂音が屋敷の背後から響いてくる。ユニオーの居場所は、聞くまでもなかった。
警邏長が馬に戻る。こぶしを震わせるゴーガンを残して屋敷を迂回する。部下たちがそれに続く。
「ウールク……」
馬上でドゥトーが苦しげな声を出し、ゴーガンの前を過ぎて行った。
屋敷の裏手へと続く道を行き、裏門が見えてきたころ
「ツェツェカフカぁぁ!!」
というゴーガンの絶叫が遠く後ろから聞こえてきた。
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