第7歩: 街は思う その一

 街は静かだった。


 遙か北の海の向こう、碧く霞むのこぎりのような山並みの向こうを感じて、街は静かだった。

 時々小さな生き物の動く音がする。街で起こったことなら全てわかる。街は街そのものなのだ。どこで何が産まれ、喰われ、死に、朽ちるのかは全てわかる。

 街の外だけが何もわからない。昔はとても大きかった街も、今はこの周りの事しかわからない。

 街には語りかける相手がいない。時間の経過だけを刻みながら思い出すのは、あの日、一人の男がやってきた時の事。とかいう話を聞いた日のこと。

 生まれて──いつを「生まれた」日とするのかわからないけれど──生まれて初めてヒトと話をした日のことを。

 街は待っている。いつかまた、そんな日が来ることを。

 そしてそれは、そんなに遠い未来ではないような気がした。




〈アルルは黒猫みたいなのと出会う 了〉

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