第6話 村長

谷には新たな侵入者もなく、静かな日々が続いた。

村の人間の大半は頬がコケてしまった者で占められていたが、特にそういった症状もなく平気な者もあった。症状が発症している者と王国の捜索隊が掛かった奇病と大きく異なる点がある。村人は頬がコケていても、死んだ目をしておらず喋る事も出来た。


コケシカは、村長に呼び出されていた。捜索隊が向かおうとしていた村で一番大きな建物、村長の家に入った。

村長は老体ではあったが、人一倍頬がコケているので実年齢以上に老けて見えた。

「コケシカ、よく来たな。ヒューッ。数日前の王国から来た数名の訪問者だがあれはどうなった? ヒューッ」

村長は喋る度に酸素不足に陥り、息継ぎが大きく必要となる。

「ヤーッ」

コケシカは掛け声をあげた。


「ふむ」

村長はコケシカの掛け声を吟味するように、目を閉じて咀嚼した。

「どうやら、王国にまた良からぬ動きがあるそうだ。ヒューッ。我々としては平穏な日々を過ごせヒューッれば良いのだが、それを妨げるような行いは困るな。ヒューッ。普段の生活と同じ生活が一番だ。変化などいらぬ。ハァハァハァ……」

含みのある物言いだった。

「ヤーッ」

コケシカは掛け声をあげ村長の家を飛び出た。


村長はコケシカが出ていくのを見守ると、コケシカの掛け声を今一度吟味するように目を閉じて咀嚼した。

村長はコケシカの掛け声をじっくり咀嚼することで気持ちが良くなる性癖だった。


頬がコケれば、酸素が足りないと言ったのはコケシカだった。

──村の人間には共感者が数名出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何だ、コケシカ? Dr.浜松 @Hamamatsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ