第5話 不義不忠

精鋭揃いの捜索隊が国を出てから、おおよそひと月が経とうとしていた。さすがに、近場の隣国とはいえここまで音沙汰がないのはどうにもおかしい。


「ええい、捜索隊はどうなっている!」


国王は状況の不透明さにしびれを切らしていた。

捜索隊にも感染から免れた数名が居たはずだったが、誰一人として国へ戻る者はいなかった。

王国はどちらかといえば、武力解決するのが得意なお国柄で、逃走といった敵に背を見せる様な行動や不義不忠などには特に厳しかった。

当然、隊長を置いて逃げてしまった捜索隊員らは国に戻って状況報告などすれば、なぜ無理矢理にでも女を捕えなかったのかと問われ、罰に処されるのは容易に想像出来る。


国王側近の者達は、声には出さなかったがまず戻ってくる事はないと思っていた。おおよそ問題が早期解決すれば隣国とは言えそう遠くない距離の国だ。一週間もあれば、結果をもって戻ってくる。戻らないという事は、何かトラブルがあったのだろう。


血気盛んな王からすれば、国の人間が戻らないといった不振な出来事すべてを隣国の谷村の責任だと決めつけ、状況に応じて村へと攻め入ることも視野に入れていた。

王は捜索に行った人間が誰一人戻らないといった事実は実際の結果はどうあれ、捜索先で全員害されたのだという極端な判断で、攻め入る大義名分が出来たと結論づけた。たかだか小国の、更には村ごときになめられる訳にはいかなかった。


国王は、追加で捜索隊編制の指示を出した。

ただ今回の捜索隊は名ばかりで、実際には討伐隊というのが相応しい血の気の多い者どもの集まりとなっていた。

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